*七海side

 「おー、いいね」

 ダンス教室のバイトが終わって、生徒を見送りながらLINEを確認すると、音羽からダンス動画が届いていた。
 動画を再生して思わず目を見張る。ダンス経験者かと思うほどスムーズに踊れていて、短期間とは思えないほど成長している。

 これも、音羽が俺との約束『毎日必ず踊って、いくつか録画して送ること!』を、きっちり守ってくれたからだ。
 しかも送るだけじゃなく、俺のアドバイスをちゃんと意識して改善しようと、何度も質問してきては修正していた。

 たしかに、飲み込みは早いタイプじゃない。だけど真面目で、ひたすら一生懸命。
 その姿勢が、こうして成果にちゃんとつながっている。

 最近は踊っている時の表情もすごくいい。
 楽しんでるのが伝わってくるし、たぶんだけど……ダンスを通して、今まで心に溜めてたものを少しずつ発散できてるんじゃないかなって思う。

 (ってか、このスタンプ何?)

 褒めたLINEに返ってきたのは、バケモンみたいな植物キャラのスタンプ。
 あまりのインパクトに、思わず吹き出して腹抱えて笑ってしまった。

 どうやったらあれを「これだ!」って選べるんだよ。しかも感謝の返しに。
 ほんと、あいつ変わってる。

 「えー、どうしたんですか先生! もしかして彼女とやり取り中〜?」

 「うそ、マジ? 彼女いるの!?」

 中学生の女子生徒たちがわーっと寄ってきて、慌ててスマホを背中に隠した。

 「ちがーう。後輩だよ。男の子」

 「え〜、よかったー! 女だったら泣いてたし」

 「ねー、先生今度デートしよ」

 「ダメ。お母さんたち心配するから、早く帰りなさい」

 「は〜い!」

 一応納得したのか、わちゃわちゃ言いながら生徒たちは帰っていく。
 こういうの、正直いつまで経っても慣れない。女子からストレートに好意を向けられると、一瞬ひいて固まってしまう。

 学校でも、向けられる視線に気づかないフリをしてやり過ごしてるけど……たまに、相手を嫌な気持ちにさせてないか心配になる。

 その点、男相手だと気を使いすぎなくていい。自然体で接していられるのが楽。
 特に今は、音羽といる時間が一番居心地いい。あいつ、変に気取らないし、いい意味で遠慮なく距離を縮めてきてくれるから。

 「……っつっても、こういうのも、もうすぐ終わるんだよな」