姉は目を輝かせて、音のない拍手を送ってくれる。
 思いの外、しっかり褒めてくれて、少々居心地が悪い。

 「そうかな。ありがと。じゃ、千円ちょうだい」

 「瑞稀、オーディション受けない!? オーディション!」

 急にスイッチが入った姉は、スマホを高速で操作しながら、息巻いて俺に突き出してきた。
 仕方なくそれを受け取って、表示された画面に目を落とす。

 【日韓合同アイドルグループ サバイバルオーディション開催!】

 あぁ、これ知ってる。
 韓国のアイドルグループって、志望者を歌やダンスで競わせて勝者をデビューさせるスタイルで知られてる。
 テレビでやる大々的なサバイバル番組もあるし、事務所内で絞り込んでいくパターンもあるって……。
 そういえば前に、姉が熱弁してたっけ。

 で、それが俺とどう関係あるんだ?

 「えーっと……オーディション受けろってこと?」

 「そう! 今の瑞稀ならイケる気がしてきた!」

 「何言ってんの。一曲踊るだけで精一杯なんだけど。絶対に無理」

 「ビジュは後から整形でもすればいいんだし」

 「お前、マジで何言ってんの」

 俺は無理やりスマホを姉に突き返し、彼女の腕を掴んで扉まで引っ張る。
 千円は後から請求するとして……今はもう、疲労が限界だ。姉のテンションに付き合っていられない。

 「はぁ……だってこのオーディション、ミオが審査員として参加するんだよ〜?」

 「へぇ、そうなんだ」

 姉の推し、日韓グループISSUEE(イッシュー)のリーダー・ミオ。
 女みたいに綺麗な顔立ちで、黒髪にクールな雰囲気を纏ってる、まさに“顔面国宝”ってやつ。
 デビューから一年も経ってないのに、既にワールドツアーまでしているそうで、人気はガチらしい。
 ……この前、姉が母さんにタイ公演の遠征をお願いしてたの、俺はちゃんと聞いてたんだ。
 父さんには絶対バレないようにって、小声で。

 「とりあえず書類応募だけでもしてみようよ?」

 「しつこいから。はい、おやすみー!」

 姉が名残惜しそうな目をしていたけど、容赦なく扉をバタンと閉めた。
 ようやく訪れた静寂に、俺は深く息を吐く。

 ベッドに腰を下ろし何気なくスマホを手に取ると七海先輩からのLINEが届いていた。

 【明日、俺暇だけどダンスの確認する? いつものベンチんとこで】