「はぁっ……はぁっ……」

 ドクドクと激しい動悸が体の奥まで響く。
 勢いよく腰を折り、深く深呼吸。止めどなく流れる汗を、タオルで無造作に拭った。

 少しずつ呼吸が落ち着いてくる中、軽いめまいを感じながらスマホスタンドに手を伸ばして、録画を一度停止。
 でもすぐに、また撮影ボタンを押して録画を再開する。

 定位置に戻って、またダンス。
 この二週間で、いったい何度このループを繰り返しただろう。もう、目をつぶってても録画止められる自信ある。

 「うぉ。初めて褒められた」

 撮った動画を七海先輩に送ったら、即レスが返ってきた。

 『めっちゃイイ。かっこいい』

 シンプルなひと言なのに、なぜか心臓が跳ねた。
 思わず顔がにやけて、記念にスクショまでしてしまう。
 それくらい、嬉しかった。

 先輩にダンスを教えてもらうようになって、今日でちょうど二週間。
 毎日、自分が踊ったダンス動画をLINEで送って、先輩からアドバイスをもらっている。

 返事がメッセージだけの時もあれば、電話で細かく教えてくれる日もあった。
 応援団の練習がある日には、時間を作って自主練にも付き合ってくれた。

 そのおかげで、周りから驚かれるほど上達できた。
 もちろん先輩のアドバイスが的確だったのもある。けれど、それ以上にここまでしてくれる先輩のために、絶対上手くなりたい! って思えたのが、大きかった。

 フローリングにドサッと体を倒し、天井を仰ぐ。

 「……なんか、すっきりしたな」

 体の奥にじわじわ広がる、爽快感。頭が冴えていく感じが分かる。
 前は当たり前にできてたのに、何かに本気で取り組むことが楽しくて、気持ちがいいことだって忘れていた。

 幸せな気持ちで目を閉じていると、ドアの向こうから足音が近づいてくる音が聞こえてくる。

 「ちょっと、瑞稀! さっきからドタドタうるさいんだけどっ……!」

 部屋のドアが、突然バンッと音を立て開く。