「つっ、首いてぇっ……」

 激痛に叩き起こされ、うっすら目を開けると、カーテンの隙間から漏れた陽光が顔面を容赦なく直撃する。
 長時間、勉強机に突っ伏して寝ていたせいで、背中も肩も腰もガッチガチだ。
 なるべく神経に響かないように慎重に手を伸ばし、頭のそばに置いたデジタル時計を探ると、午前七時三十分という絶望的な数字が目に入った。

 (マジかよ、遅刻じゃん)

 絶望していると、突然、部屋のドアが乱暴に開いた。

 「げっ! もしかして瑞稀、そこで寝てたの?」

 朝イチで聞きたくない、甲高い声の主は姉の香澄(かすみ)だ。癇に障る足音でズカズカと俺の前までやって来る。
 バチバチの睫毛に、ウルウルのカラコンで拡張された瞳が、俺をまるで下等生物でも見るかのように見下ろした。

 「げ、はこっちのセリフ。無許可で入ってくんなっつーの」

 「お母さんがアンタ起こしてこいって言うから、仕方なしに来てあげたの。……てか! パックそのまま? もう、何回言ったらわかんの!? 時間守らないと肌が乾燥するんだって!」

 「しゃーないだろ。睡眠欲は、制御不能です」

 言われて顔を触ると、パックがすっかり紙みたいに干からびていた。
 その様子に、姉はあからさまな嫌悪感を浮かべて顔をしかめたかと思うと、なぜか勢いよく俺のデスクトップPCの電源を落としやがった。

 「ちょっ……てめ、セーブしてなかったらどーすんだよっ!」

 「知らない。一から頑張れば?」

 挑発的な笑みを残して姉は出ていく。追いかけようとしたが、身体が痛すぎて体がピクリとも動かない。

 「くっそー」

 どうにかしてパソコンを再起動する。昨晩レベルアップしたゲームデータの無事を確認し、安堵のため息をついた。
 どうやら神は、見捨てていなかったらしい。
 確かに、勉強じゃなくてゲームで夜中の電気をフル稼働したのはバチ当たりだとは思うけれど、俺の干からびた青春のすべては、学校じゃなくてゲーム(ここ)にある。
 少しくらい、温かく見守ってくれてもいいだろう。

 「あの女ときたら、事情を知らないとはいえ横暴すぎるんだよなぁ」

 冷房が一晩当たっていた半袖シャツに腕を通し、ひんやり感を楽しむ。
 季節はもう九月の半ば。でも猛暑日が続いて、ブレザーを着る気には到底なれない。

 (あ、今日マジで無理な日かも)