「…怖いの。また誰かに裏切られることが、柏木さんに裏切られたらって考えたら…怖いの。だから、私には無理だってそう言いたかったのに、なぜかどうしてもその言葉が出てこなかった。今日だって、みんなと掃除をして、笑ってくれて、話せて…そんな些細なことだったけど、すごく楽しかった。こんな気持ち今までなかったのに、私が変わっていくみたいで、怖い」



自分の気持ちを言葉にしてみると、ああ自分は心底怖がっていたんだという事実にやっと気づく。


柏木さんが、みんなが、あまりにも温かくて優しい人たちで、とても居心地がいいから。


もっと一緒にいたい、みんなと仲良くなりたい。そんな欲が出てきてしまう。



蓋をしてもしても次々と溢れて止まらないこの感情を、どうしたらいいのかわからなかった。



「怖くてもいいんじゃない？」


「…え？」


「裏切られるかもしれないなんて最初から考えてたら、キリがなくない？俺だって友達に裏切られたり、明日香に裏切られるかもしれない。絶対にないってわかってるよ。でも、“絶対”なんてないだろ？長い時間をかけて築き上げてきた関係だって、些細なことがきっかけで一瞬で崩れることだってある。それでも、怖がっているだけじゃ何も得られない。変わらない。今日だって明日香がもしも先に帰っていたら、楽しいなんて気持ちすら味わえなかった。明日香は変わることを怖がっているけど、本当はそんな自分自身を変えたいって心の底では思ってるんじゃないの？」


「そんなことな…」