“帰る”と言いたいのに、縫い付けられたかのように口がうまく動いてくれなかった。


この人から早く離れないといけないと思う一方で、もう少しだけここにいたいと矛盾した私が出てくる。


この感覚が気持ちがなんなのか、確かめてみたい…。



「…少しだけ、なら」



気づいたら、そう口にしていた。


旭は嬉しそうに優しく微笑むと、私の手をそっと引いてベンチに歩いて行った。


旭と並んで座りながら、少しドキドキとしながら意味もなく髪の毛を指先で触る。



「君はこんなところで何してたの?俺はコンビニに行こうとこの辺を散策がてら歩いてたところなんだ」


「…親と喧嘩して、飛び出してきた」



咄嗟のことだったから持っているものはポケットに入れていたスマホだけ。


そのため、必然的に何時間かしたら帰らないといけないのが今から憂鬱でしかない。