誰かの幸せを願ったことなんて、一度もなかった。
自分の幸せすら思い浮かべることが出来ない私になんて、誰かの幸せを願う資格なんてない。
どんな夜でも“今”を生きている限り、必ず朝を迎える。
朝なんていらない。明日なんていらない。
そんな明日を照らしてくれたのは、君でした–––。
私の居場所はどこにもない。いらない。
どうせ離れていくなら、初めから一人でいた方がずっと楽だ。
*
「ねえ今日F組修学旅行行ってるんだってー」
「え、なんで!?」
「ほら、私たちが行ってた時期はF組、インフルエンザで学級閉鎖だったじゃん?だから今日から行くらしいよ」
「ええーいいなー。もっかい修学旅行行きたいー!もう文化祭も終わっちゃったし、しばらすイベントなんにもないじゃんつまんなー」
「あー限定メロンパン売り切れてたー。今日こそ食いたかったのにー!」
「あれ買えたら結構な運使ってると言ってもいいくらい貴重だよな。一度は食いてぇ」
「見て見て!新作ネイル〜」
「きゃー!可愛いー!それどこの!?」
様々な会話が飛び交う教室に、私の声は一切ない。
いつも通りお弁当の包みを持って教室を出る。
廊下も、教室と同じようにキラキラと顔を輝かせて友達と話す人や会話で溢れている。
馬鹿みたい。
込み上げてくる呆れに似たドロドロとした感情を押し殺しながらトイレの個室に入り、詰めていた息を吐き出す。
どうして人は常に誰かといたがるのだろう。
移動教室や登下校はもちろん、トイレにまで一緒に行くなんてどうかしていると思う。
私には微塵も理解ができない。
そんなの疲れるでしかないというのに。
どうしてこんなにも人は馬鹿な生き物なんだろう。
そんなことを思いながら、包みからお弁当箱を取り出した瞬間だった。
–––––バッシャーンッ!!!!!!
まるで滝に打たれたかのような大量の水が、頭上から降ってきた。
…何が、起きたの?
ポタポタと髪の毛から垂れ落ちた水をぼーと眺めていると、トイレのドア越しに複数の忍び笑いが聞こえてきた。
「あははっ、声聞こえないけど、だいじょーぶかなー?」
「おい、いんだろ、出てこいよー!」
ドンドンッ!と力任せにドアを叩かれ、思わずびくりと反応してしまう。
無視を貫き通していると、外から舌打ちが聞こえてきた。
「むかつく。無視しやがって」
「ねえ見て見て。いいものみーっけた」
嫌な予感がして出て行こうとするが、時すでに遅く上からホースの水が大量に降り注いできた。
「や、やめて…っ!ごほっごほ…っ」
鍵を開けて外に出ると、悪魔のような三人組がにたにたと笑って待ち構えていた。
「うわーきったな、こっち来ないでよ」
「くっさーい。トイレ臭するぅ〜」
「…毎日毎日、いい加減にしてよ」
「…あ?」
キッと三人を睨みつけ、落ちていたバケツを投げつける。
「私は一人でいたいの!もう関わらないでよ!」
六月の下旬頃から三人は私に目をつけてきて、こうした嫌がらせを毎日してくるようになった。
三人にとっては楽しい暇つぶしなんだろうけど、私にとっては迷惑でしかない。
これ以上目をつけられまいと今まで反撃をしてこなかったが、もういい加減我慢の限界だ。
一人でいることを自分で選んで過ごしているだけなのに、すかしているだとか格好つけているだとか言って、三人は気に入らないらしい。
そんなの私には関係ない。
どうして私だけ自分の生き方を否定されなきゃいけないんだ。
それも全くの他人である三人に。
クラスメイト達も見て見ぬふりをしているが、そんなのどうだっていい。
誰かに庇われる方が何倍も最悪だ。
ただ、この生活をいつまでも続けるのはもううんざりだった。
誰も私に関わらないで。お願いだから、一人にして。
「いっ…た。てめぇ、なにすんだよ」