「それじゃ、ゆっくりしていってください」
僕を中に入らせると、伯父さんは戸を閉めた。僕は布団に横たわっている和寿に少し近付くと、
「和寿。大丈夫?」
僕が声を掛けると和寿は、驚いた表情になりながらも、僕の方へ手を伸ばしてきた。僕はその手を握ったが、握り返してきた和寿の力は弱かった。本当に病人なんだ、と思わされた。和寿は、僕をじっと見た後、
「本当にワタルだ。オレの、都合のいい聞き間違いかと思った」
青白い顔でそう言った。のどの奥の方から、例のヒューヒューという音が微かに聞こえてくる。それを耳にすると、余計に自己嫌悪に陥り、僕は和寿から目をそらした。
「和寿、ごめんね。ここまで押しかけてきちゃって。でも、もう、向こうで待ってるのが無理になっちゃって。宝生先生にも、行って来なさいって言われるくらい動揺してて。だって、また連絡するって言ったのに、してこないなんて、何かあったとしか思えない。悪い方に、悪い方に考えて、止まらなくなっちゃって。来ないではいられなかった。馬鹿みたいだろ?」
和寿は、首を振って微笑むと、
「そんなことない。嬉しいよ。こんな遠くまで来てくれて。本当に……本当に、ワタルなんだな。夢じゃないよな?」
言って、また咳をした。そして、やはり、のどの奥をヒューヒュー言わせていた。本当に苦しそうだ。僕はそれを聞いていると、全くどこも悪くないにもかかわらず、自分も苦しいような気がしてきた。
僕は、和寿の手を両手で包み込んだ。そして、和寿が今こんなにも苦しんでいるのは自分のせいなのだ、と思うと悔しくて、思わず唇を噛んだ。
「ねえ、和寿。僕は君に謝らないといけないと思うんだ。この時期、ここは寒いって教えなかった。知ってたのに言っておかなかった。僕が悪くて、和寿はこんなひどい風邪を引いたんだろう。ごめん。僕が悪かったね」
泣きたい気分だった。和寿は、僕と視線を合わせると、
「おまえは悪くない。そんなに自分を責めないでくれよ。悪いのはオレだよ? オレの認識が完全に甘かった。だから、こんなことになった。おまえが責任を感じる必要はないんだ。オレの方こそ、ごめん。おまえにそんな顔されたら、オレはどうしていいかわからない」
僕は和寿にさらに体を近付け、乱れた髪を手で梳いてやった。
「僕はもう、自分の感情をごまかせない。出来ると思ってたんだけど、ダメだった。僕の本当の気持ちを言うから、ちゃんと聞いてて」
聞いてと言いながら、言葉がなかなか出て来ない。ここまで来て、自分は何をしているんだろうと嫌になった。和寿は、そんな僕の言葉を、いつまでも待っていてくれた。何も言わず、ただ僕の瞳を見つめていた。
どれくらいの時が過ぎたのだろうか。随分長い時間だったようにも、ほんの一瞬のようにも思えた。僕は、ようやく口を開く決心が出来た。
和寿に触れている手が、震えていた。
「和寿。僕は、君のことが大好きだよ。もうわかってたと思うけど。じゃなければ、ここまで来ない。好きだよ。大好きだよ。君が例え、この先僕を嫌いになっても。同性だから、やっぱり嫌だって言われても。僕の好きは変わらないからね。絶対に変わらないからね」
今まで隠していた言葉が溢れ出し、何度も何度も、好きだよ、と言ってしまった。和寿は、言われるたびに頷いた。
何度目かの告白の後、和寿が僕の頬を撫でた。そのひんやりした感触に思わず身を縮めると、和寿が笑った。が、すぐに表情を改めると、
「ワタル、ありがとう。すげー嬉しい。オレも、おまえのこと大好きだ。オレは今まで異性としか付き合ったことがないし、同性を好きになったことはない。だから、信用されないのもわかる。どうしておまえのことが好きで好きでしょうがないのか、わからない。だけど、現実におまえを好きで、考えると胸がドキドキするし、これは恋だとしか思えない。勘違いって言われたら、どう答えていいのかわからないけどさ」
和寿は、顔をそむけて軽く咳をしてから続けた。
「過去がどうだったとしても、今はおまえが好きだ。大好きだ。何でかって訊かれても、上手く答えられないけど。もう、それはさ、おまえだからっていうのはダメか? 好きな理由は、吉隅ワタルくんだから。これで勘弁してくれよ。正直、自分でも戸惑ったよ。だって、これまで同性を好きになったこと、なかったんだから。だけど、どう考えてもそうなんだから認めるしかない。こんな曖昧で、ごめん。でも、本気だから」
長い告白の途中、何度も咳をしていた。苦しいだろうに、それでも話すのをやめようとしない和寿を、愛おしく思った。
「和寿。僕は、君が総代で舞台に上がったあの日からずっと、君のことが好きだった。ずっと」
「そうか」
和寿は、布団から体をゆっくり起こすと、笑顔で僕を見てきた。顔が赤くなっていくのを感じていた。和寿は体を少しずらすと、僕をギュッと抱き締めた。
「和寿……」
呟くように名前を呼ぶと和寿は、フッと笑って、
「風邪、うつったらごめんな」
変な前置きをしてから、僕に口づけた。
僕を中に入らせると、伯父さんは戸を閉めた。僕は布団に横たわっている和寿に少し近付くと、
「和寿。大丈夫?」
僕が声を掛けると和寿は、驚いた表情になりながらも、僕の方へ手を伸ばしてきた。僕はその手を握ったが、握り返してきた和寿の力は弱かった。本当に病人なんだ、と思わされた。和寿は、僕をじっと見た後、
「本当にワタルだ。オレの、都合のいい聞き間違いかと思った」
青白い顔でそう言った。のどの奥の方から、例のヒューヒューという音が微かに聞こえてくる。それを耳にすると、余計に自己嫌悪に陥り、僕は和寿から目をそらした。
「和寿、ごめんね。ここまで押しかけてきちゃって。でも、もう、向こうで待ってるのが無理になっちゃって。宝生先生にも、行って来なさいって言われるくらい動揺してて。だって、また連絡するって言ったのに、してこないなんて、何かあったとしか思えない。悪い方に、悪い方に考えて、止まらなくなっちゃって。来ないではいられなかった。馬鹿みたいだろ?」
和寿は、首を振って微笑むと、
「そんなことない。嬉しいよ。こんな遠くまで来てくれて。本当に……本当に、ワタルなんだな。夢じゃないよな?」
言って、また咳をした。そして、やはり、のどの奥をヒューヒュー言わせていた。本当に苦しそうだ。僕はそれを聞いていると、全くどこも悪くないにもかかわらず、自分も苦しいような気がしてきた。
僕は、和寿の手を両手で包み込んだ。そして、和寿が今こんなにも苦しんでいるのは自分のせいなのだ、と思うと悔しくて、思わず唇を噛んだ。
「ねえ、和寿。僕は君に謝らないといけないと思うんだ。この時期、ここは寒いって教えなかった。知ってたのに言っておかなかった。僕が悪くて、和寿はこんなひどい風邪を引いたんだろう。ごめん。僕が悪かったね」
泣きたい気分だった。和寿は、僕と視線を合わせると、
「おまえは悪くない。そんなに自分を責めないでくれよ。悪いのはオレだよ? オレの認識が完全に甘かった。だから、こんなことになった。おまえが責任を感じる必要はないんだ。オレの方こそ、ごめん。おまえにそんな顔されたら、オレはどうしていいかわからない」
僕は和寿にさらに体を近付け、乱れた髪を手で梳いてやった。
「僕はもう、自分の感情をごまかせない。出来ると思ってたんだけど、ダメだった。僕の本当の気持ちを言うから、ちゃんと聞いてて」
聞いてと言いながら、言葉がなかなか出て来ない。ここまで来て、自分は何をしているんだろうと嫌になった。和寿は、そんな僕の言葉を、いつまでも待っていてくれた。何も言わず、ただ僕の瞳を見つめていた。
どれくらいの時が過ぎたのだろうか。随分長い時間だったようにも、ほんの一瞬のようにも思えた。僕は、ようやく口を開く決心が出来た。
和寿に触れている手が、震えていた。
「和寿。僕は、君のことが大好きだよ。もうわかってたと思うけど。じゃなければ、ここまで来ない。好きだよ。大好きだよ。君が例え、この先僕を嫌いになっても。同性だから、やっぱり嫌だって言われても。僕の好きは変わらないからね。絶対に変わらないからね」
今まで隠していた言葉が溢れ出し、何度も何度も、好きだよ、と言ってしまった。和寿は、言われるたびに頷いた。
何度目かの告白の後、和寿が僕の頬を撫でた。そのひんやりした感触に思わず身を縮めると、和寿が笑った。が、すぐに表情を改めると、
「ワタル、ありがとう。すげー嬉しい。オレも、おまえのこと大好きだ。オレは今まで異性としか付き合ったことがないし、同性を好きになったことはない。だから、信用されないのもわかる。どうしておまえのことが好きで好きでしょうがないのか、わからない。だけど、現実におまえを好きで、考えると胸がドキドキするし、これは恋だとしか思えない。勘違いって言われたら、どう答えていいのかわからないけどさ」
和寿は、顔をそむけて軽く咳をしてから続けた。
「過去がどうだったとしても、今はおまえが好きだ。大好きだ。何でかって訊かれても、上手く答えられないけど。もう、それはさ、おまえだからっていうのはダメか? 好きな理由は、吉隅ワタルくんだから。これで勘弁してくれよ。正直、自分でも戸惑ったよ。だって、これまで同性を好きになったこと、なかったんだから。だけど、どう考えてもそうなんだから認めるしかない。こんな曖昧で、ごめん。でも、本気だから」
長い告白の途中、何度も咳をしていた。苦しいだろうに、それでも話すのをやめようとしない和寿を、愛おしく思った。
「和寿。僕は、君が総代で舞台に上がったあの日からずっと、君のことが好きだった。ずっと」
「そうか」
和寿は、布団から体をゆっくり起こすと、笑顔で僕を見てきた。顔が赤くなっていくのを感じていた。和寿は体を少しずらすと、僕をギュッと抱き締めた。
「和寿……」
呟くように名前を呼ぶと和寿は、フッと笑って、
「風邪、うつったらごめんな」
変な前置きをしてから、僕に口づけた。

