ずっと、一緒に

 和寿(かずとし)は、水を一口飲んでから、

「学園祭、どうするって話なんだけど」

 僕は驚いて目を見開いた後、「え?」と言ってしまった。

「その話をする為に、わざわざここに来たんだ? 学校でも電話でも話せたのに」

 僕がそう言うと、和寿はハッとしたような表情になって、

「そうか。そうだよな。学校でも電話でも良かったんだよな。何で思いつかなかったんだろう」
「わかりました。ここで、僕に会いたかったんだね」

 からかうように言ってやると、和寿は納得したような顔になり、何度も頷いた。

「あ。そうかもな。ここに来ればおまえはピアノを弾いてる。その音楽が聞きたかったのかも」
「えーっと……。はい、わかりました。ちょっと冗談を言ってみただけだったんだけど……」
「それよりさ、ワタル。曲、どうするんだよ。何かやりたい曲は?」

 和寿の問いに、僕は身を乗り出して即答した。

「この前弾いた、バッハの無伴奏バイオリンソナタを弾いたら?」

 が、僕の答えに和寿は首を振った。

「ちょっと待て、ワタル。それは、違うだろう。オレは、おまえと二人で演奏しようとしてるんだぞ」

 和寿の表情は真剣で、ちょっと怖いくらいだった。僕は思わず俯いてしまった。

「あ、そうか。そうだよね。二人でやる曲だった。ごめん。でも……。あのソナタね、すごく良かったから……感動したから……世界中の人に聞いてもらいたいと思ったから……それで、つい……」

 自分の思いを説明し顔をそっと上げると、和寿の表情がさっきよりも柔らかくなっていた。和寿は僕の方へ右手を伸ばすと、頭を優しく撫でてきた。触れられて、胸が高鳴った。

「そうか。ごめん。ありがとう。そうだな。世界中、か。本当にそうなったらいいな」
「そうだろう。僕もそう思う。だから、君が留学したいなら僕は応援する。その時は一緒に演奏出来なくなるけど、でも……僕は応援します」
「じゃあさ、一緒に留学しよう。そうしたら、一緒に演奏出来るかもしれない」

 和寿が嬉しそうに提案してきたが、

「そんな。それは全然現実的じゃないけど。そもそも僕は、今のところ、留学しようと思ってないし」
「何故だ?」

 和寿は、信じられないことを聞いた、とでも言うように口を半開きにして目を見開いた。僕は返答に困り、「何故と言われても……」と、小さく言ったが、元々何の話をしようとしていたのかを思い出し、

「あ、ほら。話がそれた。曲を決めなきゃ」

 それでようやくお互いに意見を出し始め、候補曲が何曲か決まった。僕は、曲名を書き出したノートを見ながら微笑み、

「だいたい決まったね。良かった」
「ああ。じゃ、近い内に合わせて、この中のどれにするか決めよう」
「楽しみだな」

 僕が胸を高鳴らせてそう言った時、店長がそばへ来て、「時間だよ」と言った。料理はまだ半分くらい残っていたが、諦めた。僕はハーッと息を吐き出すと、

「和寿。食べかけで悪いんだけど、後は君のお腹にしまってください」
「わかった。いただきます」

 そう言って、すぐに食べ始めた。自分で注文した物も食べたはずだが、よく食べられるな、と感心しながらピアノの前に戻った。