試験も終わり、後期の授業が始まった。ファルファッラでピアノを弾くのは、半月ぶりくらいだ。店に入って行くと、スタッフの誰もが喜んでくれた。店長も笑顔で、
「吉隅くん。元気にしてた? 試験、どうだった?」
「ええ。まあ。大丈夫だと思います」
「そう。良かった。じゃあ、今日からまたよろしくね」
肩をポンと叩く。
「はい。よろしくお願いします」
礼をしてから更衣室へ向かった。
八時頃、和寿がやってきた。いつもの通り、バイオリンを手にしている。僕に向かって手を振ってきたが、振り返す訳にもいかないので、軽く頭を下げた。
休憩時間になり、和寿の前を通って休憩室に行こうとした時、和寿に袖をつかまれた。
「ワタル。ちょっと話そう」
「えっと……食事をしないと……」
「いいじゃん。ちょっと座って」
「ダメだってば。僕は……」
言い合いをしていると、店長がそばに来た。ニヤッと笑うと、
「いいよ。休憩時間、倍にしてあげる」
店長がそう言うと、僕が何か言うより先に和寿が、
「ありがとうございます」
嬉々として頭を下げた。店長は、口の端を上げて笑むと、人差し指を立てて言った。
「ただし、条件があります。それを聞いてくれるなら、だよ」
僕は首を傾げて店長をじっと見つめ、
「条件、ですか?」
「そう。油利木くんと一緒に、何か演奏してよ。してくれれば、時間は倍にします」
「やります。やるよな、ワタル」
興奮気味の和寿に言われ、僕は頷き、
「はい。何かリクエストはありますか」
店長は、「タイス」と即答した。『タイスの瞑想曲』、ということのようだ。和寿は「いいですよ」と軽く言ったが、僕は戸惑い和寿に目をやった。
「和寿。僕は弾いたことありません」
「ここに楽譜があるから何とかしてよ。休憩が掛かってるんだから」
「え。はい。じゃあ、ちょっと見せてよ」
もちろん曲は知っている。楽譜を見ながら、バイオリンの音が乗ったところを想像する。最後まで楽譜を見てから頷くと、
「和寿。行こう」
「よし。行こう」
ケースごと持って行くとピアノのそばで楽器を出し、弓を張って松脂を塗って、楽器を構えた。僕も急いでピアノの前に座り、ラの音を鳴らした。和寿は、しばらくペグを回しながら音を調整していたが、音が決まると僕の方を見て、
「テンポ、これくらい」
「あ、はい」
深呼吸をしてから、弾き始めた。和寿のバイオリンの音色が、なんとも艶やかだった。必死で伴奏をしていたが、鳥肌が立つのを止められない。
演奏が終わると、偶然この演奏を聞く事になったゲストたちが拍手をしてくれた。和寿に目で促されたので僕も立ち上がり、二人揃って礼をした。拍手はさらに大きくなった。
店長が拍手をしながらそばに来ると、僕の肩をポンと叩き、
「すごく良かったね。じゃ、今日は三十分休憩どうぞ。今からだよ。もうすぐご飯出来るから」
店長が去って行くと、和寿は右腕僕の肩に回し、「やったな」と言って笑った。「うん」と答えながらも、気持ちは別の所にあった。
「和寿。休憩が……休憩が減っちゃうから……早く話をしよう」
和寿は僕の言葉を聞いて、ようやく何の為に演奏したのか思い出したのだろう。ハッとしたような顔になって、「あ、そうだった」と言うと、僕を解放してくれた。楽器を素早く片付けると、和寿は食事していた席に向かった。僕も後を追った。
席に着くと料理が来ていたので軽く手を合わせてから一口食べ、「それで、話って何?」と和寿を見ながら訊いた。
「吉隅くん。元気にしてた? 試験、どうだった?」
「ええ。まあ。大丈夫だと思います」
「そう。良かった。じゃあ、今日からまたよろしくね」
肩をポンと叩く。
「はい。よろしくお願いします」
礼をしてから更衣室へ向かった。
八時頃、和寿がやってきた。いつもの通り、バイオリンを手にしている。僕に向かって手を振ってきたが、振り返す訳にもいかないので、軽く頭を下げた。
休憩時間になり、和寿の前を通って休憩室に行こうとした時、和寿に袖をつかまれた。
「ワタル。ちょっと話そう」
「えっと……食事をしないと……」
「いいじゃん。ちょっと座って」
「ダメだってば。僕は……」
言い合いをしていると、店長がそばに来た。ニヤッと笑うと、
「いいよ。休憩時間、倍にしてあげる」
店長がそう言うと、僕が何か言うより先に和寿が、
「ありがとうございます」
嬉々として頭を下げた。店長は、口の端を上げて笑むと、人差し指を立てて言った。
「ただし、条件があります。それを聞いてくれるなら、だよ」
僕は首を傾げて店長をじっと見つめ、
「条件、ですか?」
「そう。油利木くんと一緒に、何か演奏してよ。してくれれば、時間は倍にします」
「やります。やるよな、ワタル」
興奮気味の和寿に言われ、僕は頷き、
「はい。何かリクエストはありますか」
店長は、「タイス」と即答した。『タイスの瞑想曲』、ということのようだ。和寿は「いいですよ」と軽く言ったが、僕は戸惑い和寿に目をやった。
「和寿。僕は弾いたことありません」
「ここに楽譜があるから何とかしてよ。休憩が掛かってるんだから」
「え。はい。じゃあ、ちょっと見せてよ」
もちろん曲は知っている。楽譜を見ながら、バイオリンの音が乗ったところを想像する。最後まで楽譜を見てから頷くと、
「和寿。行こう」
「よし。行こう」
ケースごと持って行くとピアノのそばで楽器を出し、弓を張って松脂を塗って、楽器を構えた。僕も急いでピアノの前に座り、ラの音を鳴らした。和寿は、しばらくペグを回しながら音を調整していたが、音が決まると僕の方を見て、
「テンポ、これくらい」
「あ、はい」
深呼吸をしてから、弾き始めた。和寿のバイオリンの音色が、なんとも艶やかだった。必死で伴奏をしていたが、鳥肌が立つのを止められない。
演奏が終わると、偶然この演奏を聞く事になったゲストたちが拍手をしてくれた。和寿に目で促されたので僕も立ち上がり、二人揃って礼をした。拍手はさらに大きくなった。
店長が拍手をしながらそばに来ると、僕の肩をポンと叩き、
「すごく良かったね。じゃ、今日は三十分休憩どうぞ。今からだよ。もうすぐご飯出来るから」
店長が去って行くと、和寿は右腕僕の肩に回し、「やったな」と言って笑った。「うん」と答えながらも、気持ちは別の所にあった。
「和寿。休憩が……休憩が減っちゃうから……早く話をしよう」
和寿は僕の言葉を聞いて、ようやく何の為に演奏したのか思い出したのだろう。ハッとしたような顔になって、「あ、そうだった」と言うと、僕を解放してくれた。楽器を素早く片付けると、和寿は食事していた席に向かった。僕も後を追った。
席に着くと料理が来ていたので軽く手を合わせてから一口食べ、「それで、話って何?」と和寿を見ながら訊いた。

