俯く僕の顔を覗き込むように、和寿が見てくる。そして、ニヤッと笑ってから、
「何だよ、ワタル。下向いちゃって。オレがかっこいいからって、照れちゃってるのか? ワタルくん、可愛いね」
からかうように言われて、つい顔を上げた。そして、赤面したままで小さく言った。
「違う……よ?」
何故か疑問形になってしまった。和寿は笑い出し、
「何だ、それ。面白いな、おまえ」
「えっと……じゃあ、言い直す。違います」
「違いませんね。オレはそう思ってる」
「違わなかったら……」
僕はまた俯いた。何を言おうとしたんだろう。この気持ちは、絶対に隠しておかないといけないのに。
和寿は、
「違わなかったら、の続き。何て言おうとしたんだ?」
「そんなこと、言わないよ。和寿の聞き間違いだよ」
「オレ、耳には自信があるんだけどな。ま、いっか」
追及はやめてくれるようだ。僕は、ホッと息を吐き出した。
「オレさ、ワタルとあの時出会えて、こうして一緒に演奏出来て、本当に幸せ者だよ。ワタルと組んだからこそ、今日の試験、今までで一番いい演奏が出来たんだから。本当にありがとな」
「僕の方こそ、ありがとう。今日は、スリリングですごく楽しかったよ」
「スリリングって何だよ」
「和寿を引き立てる為の演奏って、そういうものなんだ」
「意味がわかんないけど」
伴奏する側になればわかるよ、とは言えない。でも、とにかく楽しかった。僕は満足感から、笑顔になってしまった。それを見ていた和寿が、僕を真面目な顔で見た。
「えっと……何? 僕、何か変なことしたかな」
僕が訊くと、和寿は首を振り、
「いや。何も変なことしてないぞ」
その話し方が、何だか少し変だった。変なのは僕ではなく、和寿?
「ごめん。何でもないから。じゃ、今日はここで解散しよう。またな」
和寿は椅子から立ち上がると、バイオリンケースを肩に掛けて、僕に手を振った。僕も振り返し、
「お疲れ様。今日の和寿、すごくかっこよかったよ」
つい本当の気持ちを口にしていた。しまった、と思い何とかごまかそうと思案した僕は、
「あ、えっと、バイオリン弾いてる時、だよ?」
「はい、わかりました。オレはやっぱりかっこいいんだよな」
そこで、ようやく和寿の表情が、本当に和んだ。僕は、応とも否とも答えられず、和寿を見つめていた。和寿は手を伸ばし僕の髪に触れると、
「ワタルは、本当に可愛いな。じゃあ、また」
慈しむかのような表情でそう言うと、和寿はもう一度軽く手を振り、食堂を出て行った。その姿を目で追いながら僕は、うっかり口にしてしまった言葉を思い出して、頭の中で、「どうしよう」を繰り返していた。
「何だよ、ワタル。下向いちゃって。オレがかっこいいからって、照れちゃってるのか? ワタルくん、可愛いね」
からかうように言われて、つい顔を上げた。そして、赤面したままで小さく言った。
「違う……よ?」
何故か疑問形になってしまった。和寿は笑い出し、
「何だ、それ。面白いな、おまえ」
「えっと……じゃあ、言い直す。違います」
「違いませんね。オレはそう思ってる」
「違わなかったら……」
僕はまた俯いた。何を言おうとしたんだろう。この気持ちは、絶対に隠しておかないといけないのに。
和寿は、
「違わなかったら、の続き。何て言おうとしたんだ?」
「そんなこと、言わないよ。和寿の聞き間違いだよ」
「オレ、耳には自信があるんだけどな。ま、いっか」
追及はやめてくれるようだ。僕は、ホッと息を吐き出した。
「オレさ、ワタルとあの時出会えて、こうして一緒に演奏出来て、本当に幸せ者だよ。ワタルと組んだからこそ、今日の試験、今までで一番いい演奏が出来たんだから。本当にありがとな」
「僕の方こそ、ありがとう。今日は、スリリングですごく楽しかったよ」
「スリリングって何だよ」
「和寿を引き立てる為の演奏って、そういうものなんだ」
「意味がわかんないけど」
伴奏する側になればわかるよ、とは言えない。でも、とにかく楽しかった。僕は満足感から、笑顔になってしまった。それを見ていた和寿が、僕を真面目な顔で見た。
「えっと……何? 僕、何か変なことしたかな」
僕が訊くと、和寿は首を振り、
「いや。何も変なことしてないぞ」
その話し方が、何だか少し変だった。変なのは僕ではなく、和寿?
「ごめん。何でもないから。じゃ、今日はここで解散しよう。またな」
和寿は椅子から立ち上がると、バイオリンケースを肩に掛けて、僕に手を振った。僕も振り返し、
「お疲れ様。今日の和寿、すごくかっこよかったよ」
つい本当の気持ちを口にしていた。しまった、と思い何とかごまかそうと思案した僕は、
「あ、えっと、バイオリン弾いてる時、だよ?」
「はい、わかりました。オレはやっぱりかっこいいんだよな」
そこで、ようやく和寿の表情が、本当に和んだ。僕は、応とも否とも答えられず、和寿を見つめていた。和寿は手を伸ばし僕の髪に触れると、
「ワタルは、本当に可愛いな。じゃあ、また」
慈しむかのような表情でそう言うと、和寿はもう一度軽く手を振り、食堂を出て行った。その姿を目で追いながら僕は、うっかり口にしてしまった言葉を思い出して、頭の中で、「どうしよう」を繰り返していた。

