(すい) side





僕は、自分が嫌い。







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昔から『女』になりきれなかった。

小学4年生の頃には、周りを見るとお喋りに夢中になっていた。休み時間になると「着せ替えゲームしよ」「一緒に絵書こー」と遊んでいるのを僕は遠くから不思議に思いながら眺めていたことを覚えている。

これが、違和感の始まり。

多分、この4年生の頃にコミュ力を置いてきたんだと思う。女の子らしさも。それが今の僕を苦しめている。

こうして女なのに僕と呼んでることも『多様性』の時代だから"みんな認め合いましょう"という風潮で許されているのだと思う。

けれど世の中はそんなに甘くない。

コミュ力や明るさが僕にはなかったことが、一番の問題だと思う。だからいつも俯いていた。話しかけられたら、緊張して震える声になってしまって「ぼ、僕ー」と口を開いたら、話しかけてくれた子は離れていった。僕は何もしてないのに。それから話しかけてくれた子の会話を盗み聞きしていると、決まって「気まずかった…」「何かイメージと違った!」「ちょっとあの子変わってるよね」と言われている。

もっと"女の子らしさ"が欲しかった。

けど、どうしても男子との方が話しやすい。
なぜか、スカートよりズボンの方がしっくりくる。

フツウになれない。



*


だから今日も一人本を読む。

「おはよ~」
「ね、昨日のテレビ見たー?」
「あのアイドル出てたよね~、まじイケメンすぎ」
「それなっ」

聞きたくなくても華やかな会話が、耳に入ってくる。僕もあの中に混ざりたい。けれど一番自分が自分の立場を理解してる。今、無口な僕が話しかけても冷たい目で見られる。そんなこと、わかってる。唇をきゅっと噛んでしゃぼん玉が弾けないように、堪える。ふいに過去が蘇ってこないように。

家では、一度口を開くと活字の波を泳ぎながら話すことができるのに。不思議なんだ、学校だと口が開かない。話しかけようと思っても空気を飲み込んでしまう。


これが僕の世界の形で、日常

家族にもこのことは言えてない。
本当は私ではなく僕だということ。けど、全てが"男の子らしく"もない。境目に一人でずっと立ち竦んでいる。

家族の前で嘘を吐く度、自分に嘘をつくのが得意になっていった。一人でも大丈夫と思ってるのも、心が麻痺してるからなのかもしれない。本当は一人が嫌で、温もりを求めている。誰からも理解されない、この心が癒えるのひたすら待っている。

けれどいつまで経っても心は癒えない。人に本当のことを言えるような勇気も、ない。

「今ある安定が崩れるのが怖いから」


本当は安定よりも言う勇気のほうがほしい。けど手に入らないとわかってるから。そうやって、また一つ嘘をつく。