彗 side



「僕、あの余命の話も好き」
口を開くと、言葉がすらすら出てきた。こんなの、始めてだ。僕の知らないもう一人自分が喋っているような感覚があった。

「わかる!あれはうちも泣けた」

それよりも驚いたのは、"僕"と言っていても何も言われないのが不思議だった。

「雫は僕の一人称、気持ち悪いって思わないの?」


「そんなの、別にいいじゃん。うちは本に
       ついて話せる友達ができて嬉しい。」

「彗、なんで泣いてるの?!」

顔に触れると、濡れていた。ずっと自分を苦しめてきた一人称。このせいで僕はずっと独りで。世界に僕だけが"違う"フツウを持っていて。でも、ようやく自分を縛っていた魔法が溶けた気がした。

「雫、ありがと」

誰にも聞こえない声でそう呟いた。