「空が、泣いてる」

海岸のさざ波が揺れているような音が聞こえてくる。誰もいない部屋で一人、呼吸するように膨らむカーテンを眺めながら夜の淀んだ空気に浸ってゆくのを感じる。そんな感覚が好きだ。そして一つ一つ丁寧に今日の出来事を思い出す。思い出したところで、過去は変わらないけれど。ふいに一つ水滴が落ちた。

「あれ、なんで、泣いてるんだろ」

そんなことを自分に聞いても、崩れていく視界は、(こぼ)れおちる(しずく)は止まることを知らない。最近、そんな夜が増えた。

大粒のしゃぼん玉が空を舞っているうちに空中でパッと弾けて消えるのと同じで、気持ちを溜めこんで脆くなった心が夜になると自由になって空中で弾ける。年齢を重ねるうちに口に出せない言葉が増えて、声にならないかわりに嗚咽に変わった。本当はこの心を、濁った気持ちを何処かで叫びたい。楽になりたい。そして、声を上げて笑いたいのに。現実は残酷で、取り囲む世界はそれを許さない。

だから"私たち"には嫌いなものが増えた。

嫌いなものが増える度、心の何処かで自分も嫌いになっていく。少しずつ他の人の気持ちがわからなくなっていく。孤独になっていく。

そんな、私たちの物語。