新月の夜に温泉を掘る


 ザックザックと掘るよ掘るともさ。もう、一心不乱に堀り起こす。

 でも、もう限界だ。腕が上がらない。
 スコップを突き刺す事はそんなに大変な作業ではない。でもね、「掘り起こす」とは、「掘る」プラス「起こす」の二つの作業で成り立っている。この「起こす」に力が必要なのだ。狭い穴の中でスコップに体重をかけながら、腕の力で土を起こす。5時間以上も続けていると、もう腕がプルプルしてくる。何なら、足もガクガクだ。そして当然ながら、掘った土は穴の外に出さなければならない。誰がするの?僕でしょう!!ムリ。もうムリだから!!ムリムリムリムリムリムリムリ。でも、女将さん怖いし。やるしかない。

「早く、朝になってください。お願いしま――――す!!」
 そう言いながら、スコップに体重をかけて地面に突き刺す。次の瞬間、ガツンという鈍い音が響き、スコップの先端が何か固い物に当たった。

 これまでも何度か大き目の石にぶつかり、カツンと音がした事はあった。しかし、今までの感触とは全く違う。かなり大物の予感がする。もしかすると、石ではなく岩かも知れない。もしそうであるなら、これ以上先には進めない。つまり、これまでの作業が、全て水の泡になってしまう。それはダメだ。また1メートル以上も掘るとか、ちょっと考えられない。日が昇ったら逃げるかも知れない。でも、それだとバイト料が貰えない。それもダメだ。ああ、もう!!

 思い切りジャンプして、スコップに体重の乗せる。
 これなら、もしかすると岩が割れるかも知れない。
 ガンッ!!と、穴の中に先程よりも更に大きい音が響き、スコップが沈み込んだ。
 手応えがあった。
 間違いなく障害物を砕いた。
 やった、やったぞ!!
 突き刺さっているスコップをそのままに、疲れ果ててテンションMAXの僕は両手を上げて歓喜する。すると、そんな僕の足元から水が滲み出してきた。水量は徐々に増えていき、すぐに足首辺りまで浸かる。

 温かいけど?
 これって、もしかして、もしかすると温泉?
 手を浸けてみると、やはり温かい。しかも、少し鼻をつく匂いがする。

「温泉だ。温泉だ。温泉出た―――――!!」

 東の空が少しずつ黒から群青色に変わっていく時間帯に、僕は本当に温泉を掘り当ててしまった。旅館の裏庭から湧くのなら、もっと早く掘っていれば良かったのに。そうすれば、宿泊客の大半を隣の旅館に奪われる事もなかっただろう。