「いやぁ、祭り自体には来ていたんですけどねぇ。ははははは」

 笑って誤魔化しながら人混みを縫うように歩いていると、すれ違った人に名前を呼ばれた。

「萌香」
「あれ、彩菜来てたの?」

 声の主は彩奈だった。
 私は立ち止まり手を振る。

 しかし彩奈は振り返そうとはせず、ただじっとこっちを見ていた。
 よく見れば、彩菜の友だちだろうか。
 後ろに二人同じ年くらいの女の子がいる。

 うちのクラスじゃないし、彩菜の部活の友だちかな。
 
「デート?」

 彩奈は私と手を繋ぐ優夜先輩を見た。
 学校ではあの日以来、極力優夜先輩の話はしてこなかった。

 惚気って嫌がられるかもしれないし、それに付き合ったこと自体、彩菜はなんだか嫌そうだったから。
 直接口に出して言うことはなかったけど。

 やっぱり告白を間違えてそのままっていうのが、彩菜としては不誠実だって思ったのかも。

「うん、そう」
「萌香ちゃんのお友だち?」
「はい。中学からの親友なんです」
「そっか。初めまして」
「……初めまして」

 固いを通り越して、ぎこちなさすぎる挨拶。
 さすがに気まずすぎるわ。
 テキトーなこと言って、切り抜けないと。

「今から花火見に行くの。彩菜たちは?」
「もう帰るとこよ。花火とか興味ないし」
「そっか。また月曜日、学校でね」

 にこやかに微笑むと、今度は私が先輩の手を引いて歩き出した。
 
 なんだったんだろう。
 今の感じ。
 前に付き合うことになったって言った時より、なんか彩奈怖かった。

 ううん。彩菜だけじゃない。
 後ろにいた二人もそう。
 睨んでいたのは私の気のせいじゃないよね。

「萌香ちゃん大丈夫?」

 手を引いたままただ歩く私の手を、先輩がぎゅっと引き寄せた。
 声をかけられるまで気づかなかったが、どうやら私は神社を抜けてしまったらしい。

「すみません、大丈夫です」
「そう? 顔色悪いよ。花火やめてどこかで休もうか」
「いえ、本当に大丈夫です」
「でも……」
「優夜……さんと花火見たいのダメですか?」

 私の答えに先輩は大きくため息を吐いたあと、片方の手で目を覆った。
 そして首をかしげながら、やや赤くなった顔でこちらを見る。

「ダメじゃないよ」

 その言葉と表情に、先ほどまでの嫌だった気持ちなどどこにもなくなっていた。