「先輩好きです。付き合ってください!」
学年縦割りで行う体育祭の後片付け。
クラス実行委員にあえなく選ばれてしまった私たちは、その最終日の片づけをこなしていた。
時計の針は容赦なく進み、私に残された時間ももう少ない。
この体育祭が終わってしまえば、お互いの教室を行き来することも出来なくなってしまう。
だからもう今しかない。
そう意気込んだ私は、意を決して先輩に告白をした。
頭を下げ、ただ彼の返事を待つ。
しばらくの沈黙。
たぶんたった数十秒なのだろうけど、耳に付く心臓の音が早くと叫んでいる。
やっぱりダメだよね。
だって実行委員になって、一緒に企画を進めたのだって一か月くらいだし。
そんなに簡単にいい返事が来ないことも私だって分かってる。
だけど告白しないまま、何もないままでどうしても終わりたくなかったんだ。
だからダメでも大丈夫。
ちゃんと伝えたんだもん。
きっとまた次に進め……。
「え、萌香ちゃん俺のこと好きでいてくれたんだ。ヤバ。めっちゃ嬉しいんだけど」
私はその言葉にやや違和感を覚え、急いで顔を上げた。
そこには照れたように後頭部をかく、優夜先輩がいる。
彼もこの縦割り実行委員の一人で、私の一学年上の高校二年生。
確かバスケ部所属だっけ。
高身長で黒く短い髪。
やや日焼けした顔に、どちらかというといたずらっぽい子どものような表情。
クラスでもムードメーカーで、ややチャラくってって、聞いたことがある。
あるけども……。
「ゆ、優夜先輩……」
「全然いいよ、付き合っちゃお! 俺幸せにするから」
「え、あ……」
優夜先輩は嬉しそうに私の手を掴んで引き寄せた。
そして私の体ごとくるりと回ると、その場にいた一人の先輩に私を紹介する。
「尚人、俺たち付き合うことになったわー」
「おー。おめでとう。良かったね、萌香ちゃん。優夜は優しいから、いっぱい奢ってもらいな」
「なんだよ、それー」
「だって女の子には奢るもんだろ?」
「まぁ。そうだけども」
二人のやり取りを、私は乾いた笑みを浮かべながら見ている。
何がどうなったら、こんなことになったんだっけ。
確かに私はあの場で告白した。
そう、今目の前にいる尚人先輩にしたつもりだった。
猫目でふんわりとした表情。
やや塩顔で、誰にでも優しく接してくれる尚人先輩に……。
だけど今私の隣には、優夜先輩がいる。
嘘でしょう?
あの場に二人いて、尚人先輩ではなく優夜先輩に告白しちゃったってこと?
私、尚人先輩しかいないと思って告白したのに、優夜先輩もいたなんて……。
しかも『おめでとう』って。
尚人先輩にそう言われてしまった。
じゃあ、もしあの時尚人先輩だけだったとしても告白は成功しなかったってことでしょう。
でも、この状況はどうすばいいの。
隣でよころぶ優夜先輩に、今さら告白先を間違えましたなんて言えないよ。
嘘でしょう。
思いっきりやらかしちゃったんだけど。
やだ、私どうすればいいのよぉ。
泣くことも、叫ぶことも出来ず、ただ私は仲の良い二人の掛け合いを見ているしかできなかった。
「萌香ちゃん、これからよろしくね。俺大切にするからさ」
まっすぐな優夜先輩の瞳。
本当のことなど言えるわけもなかった。
「ハイ……こちらこそ、よろしくお願いします」
そう。
これがすべての間違いの始まりだったとも知らずに、その日私は優夜先輩と付き合うことになった。
そして連絡先を交換したあと、今日はこのあと用事がまだあるのでと適当な言い訳をつけて自分の教室へ逃げ帰った。
学年縦割りで行う体育祭の後片付け。
クラス実行委員にあえなく選ばれてしまった私たちは、その最終日の片づけをこなしていた。
時計の針は容赦なく進み、私に残された時間ももう少ない。
この体育祭が終わってしまえば、お互いの教室を行き来することも出来なくなってしまう。
だからもう今しかない。
そう意気込んだ私は、意を決して先輩に告白をした。
頭を下げ、ただ彼の返事を待つ。
しばらくの沈黙。
たぶんたった数十秒なのだろうけど、耳に付く心臓の音が早くと叫んでいる。
やっぱりダメだよね。
だって実行委員になって、一緒に企画を進めたのだって一か月くらいだし。
そんなに簡単にいい返事が来ないことも私だって分かってる。
だけど告白しないまま、何もないままでどうしても終わりたくなかったんだ。
だからダメでも大丈夫。
ちゃんと伝えたんだもん。
きっとまた次に進め……。
「え、萌香ちゃん俺のこと好きでいてくれたんだ。ヤバ。めっちゃ嬉しいんだけど」
私はその言葉にやや違和感を覚え、急いで顔を上げた。
そこには照れたように後頭部をかく、優夜先輩がいる。
彼もこの縦割り実行委員の一人で、私の一学年上の高校二年生。
確かバスケ部所属だっけ。
高身長で黒く短い髪。
やや日焼けした顔に、どちらかというといたずらっぽい子どものような表情。
クラスでもムードメーカーで、ややチャラくってって、聞いたことがある。
あるけども……。
「ゆ、優夜先輩……」
「全然いいよ、付き合っちゃお! 俺幸せにするから」
「え、あ……」
優夜先輩は嬉しそうに私の手を掴んで引き寄せた。
そして私の体ごとくるりと回ると、その場にいた一人の先輩に私を紹介する。
「尚人、俺たち付き合うことになったわー」
「おー。おめでとう。良かったね、萌香ちゃん。優夜は優しいから、いっぱい奢ってもらいな」
「なんだよ、それー」
「だって女の子には奢るもんだろ?」
「まぁ。そうだけども」
二人のやり取りを、私は乾いた笑みを浮かべながら見ている。
何がどうなったら、こんなことになったんだっけ。
確かに私はあの場で告白した。
そう、今目の前にいる尚人先輩にしたつもりだった。
猫目でふんわりとした表情。
やや塩顔で、誰にでも優しく接してくれる尚人先輩に……。
だけど今私の隣には、優夜先輩がいる。
嘘でしょう?
あの場に二人いて、尚人先輩ではなく優夜先輩に告白しちゃったってこと?
私、尚人先輩しかいないと思って告白したのに、優夜先輩もいたなんて……。
しかも『おめでとう』って。
尚人先輩にそう言われてしまった。
じゃあ、もしあの時尚人先輩だけだったとしても告白は成功しなかったってことでしょう。
でも、この状況はどうすばいいの。
隣でよころぶ優夜先輩に、今さら告白先を間違えましたなんて言えないよ。
嘘でしょう。
思いっきりやらかしちゃったんだけど。
やだ、私どうすればいいのよぉ。
泣くことも、叫ぶことも出来ず、ただ私は仲の良い二人の掛け合いを見ているしかできなかった。
「萌香ちゃん、これからよろしくね。俺大切にするからさ」
まっすぐな優夜先輩の瞳。
本当のことなど言えるわけもなかった。
「ハイ……こちらこそ、よろしくお願いします」
そう。
これがすべての間違いの始まりだったとも知らずに、その日私は優夜先輩と付き合うことになった。
そして連絡先を交換したあと、今日はこのあと用事がまだあるのでと適当な言い訳をつけて自分の教室へ逃げ帰った。



