「だから君は、わたしと離れた方がいい。わたしは、君と離れた方がいい」

 薄々察しがついていた。ありふれた二人の、ありふれた別れ。
 素直に受け入れられなかった。

「でも――」

「大丈夫。君は、わたしがいなくても」

 そう言われて、口答えできるほど恩知らずではなかった。
 彼女――優莉が、自分がいなくても大丈夫なんて、そう認めてくれたのに、それを覆すような……。
 だからといって、別れを受容できるほど変わったわけじゃない、非情になったわけじゃない。
 言えなかったこと、言いたかったこと。誰かに言いたかった。
 あなたしかいないと、そう思って。

「大丈夫、わたしじゃなくても」

 あなたがいないと、私は――。
 ただ、心の中で。
 積み上げてきたすべてを、失ってしまいそう。そんな、感覚だ。

「大丈夫」

 彼女がそう連呼したのは、きっと大丈夫ではなかったから。彼女自身がとても――そう、辛くて、でも大丈夫だって言い聞かせたくて。
 ああ、馬鹿なやつだ。そんなことにすら、気づけないなんて。
 でも、僕は気づいていない。

「じゃあ……じゃあ、最後に、写真だけでも!」

「写真はあんまり好きじゃない。言わなかったっけ」

「一枚だけでいいから! お守り、が、欲しい」

 彼女は、渋々うなずく。
 涙の零れた笑顔に、スマホを持っていない手でピースする僕。対して彼女は――撮る瞬間、ほんのうすく、笑った。

「……ありがとう」

「これで、君がどうしようもなくなることは、ない」

 言い切って、彼女は目を伏せる。

「こんなものなくても、大丈夫、だけど」

 続けて、言葉を探すように、目をつぶる。
 僕は、彼女の言葉選び、一つ一つを逃さないために、彼女をむっと見る。

「だから、これで最後。死ぬより前に、また会おう」

 そう言って、背を向けた。
 小さくなる星の光。願い事を三回言う前に、ふっと消えた。
 そう、ごくありふれた二人の、ごくありふれた別れ。
 それなのに、どうして僕はこんなに――

 苦しいのだろう。