気づけば、時刻は二十二時を回っていた。
陽菜の家から自分の家に帰ってきたのが、二十一時過ぎ。
それから、母が連絡もなく無断欠席を続けたことの説教を、およそ三十分。
説教の間に帰ってきた父は、両親をブロックしたことについての説教を、こちらもおよそ三十分。
「……ふう」
人生で一番怒られた。
疲れたが、後悔は全くない。
「旅行、楽しかったし」
関西を観光したことも、陽菜と仲を深めたことも、優莉に会えたことも。
全部楽しかった。
「うちの愛も知れたし」
きっと、前までならこの説教にも腹を立てていただろう。
しかし、陽菜の家庭を知ったことで、これが愛なのだと、納得して理解することができた。
「ただ、さすがに疲れた」
一日が長すぎて、優莉と会ったのが二日前や三日前のような感覚だ。
幸いなのは、明日が一日休みということか。土曜日に帰ってこられてよかった。
とはいえ、今日ももう限界なので、僕は布団に倒れ込む。
お風呂はまだだし服も着替えていないが、そんなこと気にできない。
最後に意識に浮かんだのは、ただ静かに本を読む僕と、それに声をかけるでもなく並んで座って本を読む優莉の姿だった。
朝が来る。
教室の中、今日もクラスが回る。
僕はクラスの輪の外から眺める。
「優吾くんおはよう!」
クラス中に響き渡る声で、陽菜が僕に挨拶をした。
「朝から大きな声は出さないでもらえる? まだ疲れが残ってるんだ」
「昨日はどうしたの?」
「一日中休んでたけど。僕は体力のある人じゃないから」
クラスメイトたちが、好奇の視線を浴びせる。
僕へのものも少しはあるが、大半は陽菜へのものだった。
クラスの中心だった彼女が、クラスの腫れ物に話しかけている光景。大変珍しいことだろう。
「優吾くん、カラオケ行こ!」
「いやいや、お金ないでしょ」
「えー……」
僕を取り巻く問題が増えてしまった。
もともと二つの問題があった。
まず第一に、クラスの輪から外されていること。
第二に、そんな僕の心の支えともいえた"あの人"が、もういないということ。
「ほとんど解決してるな」
クラスの輪から外されていることは、陽菜が僕に執拗に話しかけてくるようになったことで、問題ではなくなった。
優莉がいないことも、会おうと思えば会えるようになったし、話そうと思えば話せるし、他にも心の支えが増えた。
「なんの話?」
「陽菜のおかげで、僕の問題がほとんど解決したって話」
「わたしも優吾くんのおかげで問題全部解決したよ!」
「全部?」
「そう。昨日お父さんが勉強しなさいってしつこいぐらい言ってきたし、優莉とは対等になれたって思えるようになったし」
判断基準が、大輔さんが勉強しなさいと言ってきたことなのが、普通の家庭に近づいたことを実感させる。
しかし、なんの説明もなく優莉と対等になれたって思えるようになったと言われても、僕がどこで関わっているのかわからない。
「なんで対等になったと思うわけ?」
「え、もしかして違うの……? 優吾くんが、優莉かわたしどっちのことが好きかわからないって言ってたから、対等なライバルになったと思ってたんだけど……」
「デート対決は優莉の圧勝だったじゃん」
「……」
「冗談だよ」
陽菜は安堵の息を吐く。
笑えない冗談を言ってくる陽菜の気持ちがわかった気がする。
……いや、陽菜の場合は笑えない冗談というか大体本当のことだったような気もする。
「でも、陽菜が両親と喋ってたとき、僕はその場にいただけだけどね」
「そうだよ。だから優吾くんは関係ないね」
「……」
「冗談だよ。優吾くんの真似」
この流れを始めたのは僕だ。
なにも文句を言えない。
そこで、追い詰められた僕に救いの手を差し伸べるように、朝のチャイムが鳴る。
天野先生の代わりの先生が、今日も入ってくる。
先生の話は今日も頭に入ってこない。
――優莉には会おうと思えば会えるようになったとはいえ、やはり気になるのもまた事実。
スマホを開いて、三人の写真を眺める。
そうしていると、優莉からメッセージの通知。
星の欠片が、強く光る。これはまだ、心の支えだ。
『今日はスカイツリーが綺麗だね』
『優莉は見えてないでしょ』
『こっちは摩耶山が綺麗だから』
言われて外を見る。
鬱陶しいほどに晴れ渡った空。
こんな中、掬星台から見る景色はどれだけ綺麗なのだろうか。
……晴れ空で、星が光ったような気がした。
陽菜の家から自分の家に帰ってきたのが、二十一時過ぎ。
それから、母が連絡もなく無断欠席を続けたことの説教を、およそ三十分。
説教の間に帰ってきた父は、両親をブロックしたことについての説教を、こちらもおよそ三十分。
「……ふう」
人生で一番怒られた。
疲れたが、後悔は全くない。
「旅行、楽しかったし」
関西を観光したことも、陽菜と仲を深めたことも、優莉に会えたことも。
全部楽しかった。
「うちの愛も知れたし」
きっと、前までならこの説教にも腹を立てていただろう。
しかし、陽菜の家庭を知ったことで、これが愛なのだと、納得して理解することができた。
「ただ、さすがに疲れた」
一日が長すぎて、優莉と会ったのが二日前や三日前のような感覚だ。
幸いなのは、明日が一日休みということか。土曜日に帰ってこられてよかった。
とはいえ、今日ももう限界なので、僕は布団に倒れ込む。
お風呂はまだだし服も着替えていないが、そんなこと気にできない。
最後に意識に浮かんだのは、ただ静かに本を読む僕と、それに声をかけるでもなく並んで座って本を読む優莉の姿だった。
朝が来る。
教室の中、今日もクラスが回る。
僕はクラスの輪の外から眺める。
「優吾くんおはよう!」
クラス中に響き渡る声で、陽菜が僕に挨拶をした。
「朝から大きな声は出さないでもらえる? まだ疲れが残ってるんだ」
「昨日はどうしたの?」
「一日中休んでたけど。僕は体力のある人じゃないから」
クラスメイトたちが、好奇の視線を浴びせる。
僕へのものも少しはあるが、大半は陽菜へのものだった。
クラスの中心だった彼女が、クラスの腫れ物に話しかけている光景。大変珍しいことだろう。
「優吾くん、カラオケ行こ!」
「いやいや、お金ないでしょ」
「えー……」
僕を取り巻く問題が増えてしまった。
もともと二つの問題があった。
まず第一に、クラスの輪から外されていること。
第二に、そんな僕の心の支えともいえた"あの人"が、もういないということ。
「ほとんど解決してるな」
クラスの輪から外されていることは、陽菜が僕に執拗に話しかけてくるようになったことで、問題ではなくなった。
優莉がいないことも、会おうと思えば会えるようになったし、話そうと思えば話せるし、他にも心の支えが増えた。
「なんの話?」
「陽菜のおかげで、僕の問題がほとんど解決したって話」
「わたしも優吾くんのおかげで問題全部解決したよ!」
「全部?」
「そう。昨日お父さんが勉強しなさいってしつこいぐらい言ってきたし、優莉とは対等になれたって思えるようになったし」
判断基準が、大輔さんが勉強しなさいと言ってきたことなのが、普通の家庭に近づいたことを実感させる。
しかし、なんの説明もなく優莉と対等になれたって思えるようになったと言われても、僕がどこで関わっているのかわからない。
「なんで対等になったと思うわけ?」
「え、もしかして違うの……? 優吾くんが、優莉かわたしどっちのことが好きかわからないって言ってたから、対等なライバルになったと思ってたんだけど……」
「デート対決は優莉の圧勝だったじゃん」
「……」
「冗談だよ」
陽菜は安堵の息を吐く。
笑えない冗談を言ってくる陽菜の気持ちがわかった気がする。
……いや、陽菜の場合は笑えない冗談というか大体本当のことだったような気もする。
「でも、陽菜が両親と喋ってたとき、僕はその場にいただけだけどね」
「そうだよ。だから優吾くんは関係ないね」
「……」
「冗談だよ。優吾くんの真似」
この流れを始めたのは僕だ。
なにも文句を言えない。
そこで、追い詰められた僕に救いの手を差し伸べるように、朝のチャイムが鳴る。
天野先生の代わりの先生が、今日も入ってくる。
先生の話は今日も頭に入ってこない。
――優莉には会おうと思えば会えるようになったとはいえ、やはり気になるのもまた事実。
スマホを開いて、三人の写真を眺める。
そうしていると、優莉からメッセージの通知。
星の欠片が、強く光る。これはまだ、心の支えだ。
『今日はスカイツリーが綺麗だね』
『優莉は見えてないでしょ』
『こっちは摩耶山が綺麗だから』
言われて外を見る。
鬱陶しいほどに晴れ渡った空。
こんな中、掬星台から見る景色はどれだけ綺麗なのだろうか。
……晴れ空で、星が光ったような気がした。



