日めくりカレンダーの日付はめくる度に太る。最大限に大きくなった頃、アスファルトのひび割れに名も知らない黄色の花が咲いた。小野はその野花を踏みしめて馴染みの職場に出勤する。
平日の昼下がりにも、東京の空に高層ビルが乱立する。寂れた雀荘はメトロポリタンの隙間を縫い、スカイツリーの切れ端が微かに覗く雑居ビルに居座っている。
透明化され得る私鉄の振動に感化され、小野は手にした居場所に愛着を感じている。
「ロン」
バイト中の小野は、フリーの客を相手に麻雀で上がった。常連客3人とスタッフの小野で囲む窓際の雀卓で、明らかに小野は麻雀の腕が上手かった。
連勝を続ける小野は、愉快そうに頭を下げて点棒を奪取する。手元の点数表示は、小野がダントツで大勝していることを示していた。
「いやあ、小野くんはいつでも強いね」
「運がいいだけです。幸いなことに僕は、引きがいい人生を選びとれているので」
小野は麻雀牌で手遊びをしながら、常連客の誉め言葉に謙遜を返す。彼は自身の金髪に潜るピアスをいじり、軽快に笑って場をなごませる。
ジャラジャラ、ジャラジャラと小野が雀卓の布地の上で牌を触る。白く長い指が赤ドラの牌の色味に映える。客の老年男性が、小野の落ち着かない動作を凝視する。含みのある意図に小野は気づかないふりをする。
ジャラン、と玄関が開く音が店内に響く。
小野は振り返り、期待と高揚を詰め込んだ視線を玄関に送る。
「こんにちは」
跳ねるような声音に似つかわしい声の主は、小野が予想した人物そのものだった。
「いらっしゃい、五十嵐くん」
小野はにこにこしながら駆け寄る。五十嵐はペコリと頭を下げ、ぎこちない笑みを小野に向ける。
「もう、猫被っちゃって。猫なで声、猫背、猫っ毛。猫まつりだ」
スタッフ用の部屋で作業をしていた佐久間が玄関まで赴き、不自然に可愛い子ぶる小野の姿を見て呆れる。
五十嵐は、去る大雨の日にこの雀荘を訪れた男性。あれから何度かこの店に訪れ、緩く麻雀を打っている。小野は五十嵐の来店を心待にし、彼が来る度に最大限の愛想とサービスを振り撒いている。
五十嵐は普段と変わらず、ブルーのスーツ。フェイスラインを覆う黒髪に切れ長の目。どこかちぐはぐで近寄りがたい雰囲気もありつつ、慣れない環境ではおどおどする姿を隠せない内弁慶な気質。その見た目とのギャップも、小野はとても気に入っていた。
平日の昼下がりにも、東京の空に高層ビルが乱立する。寂れた雀荘はメトロポリタンの隙間を縫い、スカイツリーの切れ端が微かに覗く雑居ビルに居座っている。
透明化され得る私鉄の振動に感化され、小野は手にした居場所に愛着を感じている。
「ロン」
バイト中の小野は、フリーの客を相手に麻雀で上がった。常連客3人とスタッフの小野で囲む窓際の雀卓で、明らかに小野は麻雀の腕が上手かった。
連勝を続ける小野は、愉快そうに頭を下げて点棒を奪取する。手元の点数表示は、小野がダントツで大勝していることを示していた。
「いやあ、小野くんはいつでも強いね」
「運がいいだけです。幸いなことに僕は、引きがいい人生を選びとれているので」
小野は麻雀牌で手遊びをしながら、常連客の誉め言葉に謙遜を返す。彼は自身の金髪に潜るピアスをいじり、軽快に笑って場をなごませる。
ジャラジャラ、ジャラジャラと小野が雀卓の布地の上で牌を触る。白く長い指が赤ドラの牌の色味に映える。客の老年男性が、小野の落ち着かない動作を凝視する。含みのある意図に小野は気づかないふりをする。
ジャラン、と玄関が開く音が店内に響く。
小野は振り返り、期待と高揚を詰め込んだ視線を玄関に送る。
「こんにちは」
跳ねるような声音に似つかわしい声の主は、小野が予想した人物そのものだった。
「いらっしゃい、五十嵐くん」
小野はにこにこしながら駆け寄る。五十嵐はペコリと頭を下げ、ぎこちない笑みを小野に向ける。
「もう、猫被っちゃって。猫なで声、猫背、猫っ毛。猫まつりだ」
スタッフ用の部屋で作業をしていた佐久間が玄関まで赴き、不自然に可愛い子ぶる小野の姿を見て呆れる。
五十嵐は、去る大雨の日にこの雀荘を訪れた男性。あれから何度かこの店に訪れ、緩く麻雀を打っている。小野は五十嵐の来店を心待にし、彼が来る度に最大限の愛想とサービスを振り撒いている。
五十嵐は普段と変わらず、ブルーのスーツ。フェイスラインを覆う黒髪に切れ長の目。どこかちぐはぐで近寄りがたい雰囲気もありつつ、慣れない環境ではおどおどする姿を隠せない内弁慶な気質。その見た目とのギャップも、小野はとても気に入っていた。

