放課後、二人は並んで部活動に勤しんでいた。今日の泉は三射中り、佐久間は二射中りと二人は良い勝負を繰り広げているところだった。
部長の掛け声で休憩に入った直後、タオルを首から下げる二人に伊藤先生が声を掛けてきた。
「それで、来年度の男子生徒を増やす案、どうなった?」
「あっ」
伊藤先生の問いかけに二人は同時に声を上げる。二人は揃ってその話をすっかり忘れていた。伊藤先生はニコニコと恐ろしく圧のある笑みを浮かべていた。その表情に、忘れていた、とは言えない。
えっと、と泉は必死に考えを巡らせる。その隣で泉より先に佐久間が口を開いた。
「この前俺が言った女子押しと薫くんが言った男子押し、両方のアピールでいいと思んじゃない? 学校、保護者、生徒たちに許可を得て学校行事などの写真を学校のホームページやSNSに上げるのがいいと思う」
佐久間の提案に伊藤先生は顎に手を当てて、ふむ、と頷く。
「SNSは盲点だったな」
「少し前ですけど、みんなで踊ってみた、とか他校でバズってたよ。元女子高の実態、みたいな動画もいいんじゃないですか。男子が少なくてハーレム状態の現状も暴露したらそれはそれでハーレムに夢を見る男子生徒が入るかもしれないし」
なるほどなるほど、と呟く伊藤先生の目は輝いていた。彼は完全にやる気だ。
隣に並ぶ泉に佐久間は顔を向けた。
「女子の方は俺がやるよ。三年の河合先輩なんてどう?」
三年の河合先輩は泉も名前を聞いたことがある。薫はまだ会ったことはないが、この学校で断トツで可愛い先輩だと聞いている先輩だ。彼女を狙うにはさすがに高嶺の花過ぎると真一が言っていたのを泉は覚えていた。
「由比先輩、河合先輩と知り合いなんですか?」
泉の問いに佐久間はピースをして見せる。
「友達」
さすが、という言葉しか出ない。
「男子の方は薫くんがやってくれる? ほら、俺男嫌いで有名だから」
「はい」
佐久間は“男嫌い”という言葉を強調するとちらりと伊藤先生の方を見た。どうやら佐久間なりに彼への牽制を含んでいるらしい。しかし残念ながら彼はその牽制に全く気付いておらず、無遠慮に佐久間の肩をポンポンと叩いてきた。
「それじゃあ、はいこれ」
伊藤先生はポケットからなにやら取り出すとそれ佐久間と泉に手渡した。二人が受け取るとそれは”広報“と大きな文字で書かれた腕章だった。
あとこれも、と言って”学校貸与“とシールが貼られたデジタルカメラもそれぞれに一台ずつ手渡される。
「これを付けていれば好きに写真撮ったり、行事中は自由に動けるようにしてあるから。カメラはこれを使ってくれ」
既に用意されていた広報の腕章とデジタルカメラ、おまけに広報として自由に動けるように既に手配済みだという。
そのあまりの手際の良さに佐久間は伊藤先生をジトっとした目で見つめた。
「……案も出さずに俺たちが断る可能性もあったけど」
「いやいや、俺はお前たちにやらせる気しかなかったから」
そう言うと伊藤先生は真っ白な歯を見せてニカッと笑った。
「あの中学出身者は頼まれたらやる精神だろ?」
俺も同じ中学出身だからな、と笑う伊藤先生に二人は頭を抱えた。
「写真掲載もSNS投稿もひとまず俺を通してやってもらうから、撮ったものは全部俺に送ってくれ。ひとまず広報担当紹介だな」
伊藤先生はそう言うとポケットから自分の携帯端末を取り出すと二人にカメラを向けた。
「弓道着の男子二人なんて、ウケがいいんじゃないか」
カシャッと写真を撮る音がして、次に伊藤先生はたった今撮った写真を二人に見せる。画面には弓道着姿で並ぶ佐久間と泉の姿がしっかりと映し出されていた。
ポーズを取る間もなく撮影された写真だったが、それでも佐久間はやけに絵になっていた。佐久間の写真写りが良い分、より一層頼りなく見える隣に写る自分の姿に泉は苦笑いを浮かべた。
部長の掛け声で休憩に入った直後、タオルを首から下げる二人に伊藤先生が声を掛けてきた。
「それで、来年度の男子生徒を増やす案、どうなった?」
「あっ」
伊藤先生の問いかけに二人は同時に声を上げる。二人は揃ってその話をすっかり忘れていた。伊藤先生はニコニコと恐ろしく圧のある笑みを浮かべていた。その表情に、忘れていた、とは言えない。
えっと、と泉は必死に考えを巡らせる。その隣で泉より先に佐久間が口を開いた。
「この前俺が言った女子押しと薫くんが言った男子押し、両方のアピールでいいと思んじゃない? 学校、保護者、生徒たちに許可を得て学校行事などの写真を学校のホームページやSNSに上げるのがいいと思う」
佐久間の提案に伊藤先生は顎に手を当てて、ふむ、と頷く。
「SNSは盲点だったな」
「少し前ですけど、みんなで踊ってみた、とか他校でバズってたよ。元女子高の実態、みたいな動画もいいんじゃないですか。男子が少なくてハーレム状態の現状も暴露したらそれはそれでハーレムに夢を見る男子生徒が入るかもしれないし」
なるほどなるほど、と呟く伊藤先生の目は輝いていた。彼は完全にやる気だ。
隣に並ぶ泉に佐久間は顔を向けた。
「女子の方は俺がやるよ。三年の河合先輩なんてどう?」
三年の河合先輩は泉も名前を聞いたことがある。薫はまだ会ったことはないが、この学校で断トツで可愛い先輩だと聞いている先輩だ。彼女を狙うにはさすがに高嶺の花過ぎると真一が言っていたのを泉は覚えていた。
「由比先輩、河合先輩と知り合いなんですか?」
泉の問いに佐久間はピースをして見せる。
「友達」
さすが、という言葉しか出ない。
「男子の方は薫くんがやってくれる? ほら、俺男嫌いで有名だから」
「はい」
佐久間は“男嫌い”という言葉を強調するとちらりと伊藤先生の方を見た。どうやら佐久間なりに彼への牽制を含んでいるらしい。しかし残念ながら彼はその牽制に全く気付いておらず、無遠慮に佐久間の肩をポンポンと叩いてきた。
「それじゃあ、はいこれ」
伊藤先生はポケットからなにやら取り出すとそれ佐久間と泉に手渡した。二人が受け取るとそれは”広報“と大きな文字で書かれた腕章だった。
あとこれも、と言って”学校貸与“とシールが貼られたデジタルカメラもそれぞれに一台ずつ手渡される。
「これを付けていれば好きに写真撮ったり、行事中は自由に動けるようにしてあるから。カメラはこれを使ってくれ」
既に用意されていた広報の腕章とデジタルカメラ、おまけに広報として自由に動けるように既に手配済みだという。
そのあまりの手際の良さに佐久間は伊藤先生をジトっとした目で見つめた。
「……案も出さずに俺たちが断る可能性もあったけど」
「いやいや、俺はお前たちにやらせる気しかなかったから」
そう言うと伊藤先生は真っ白な歯を見せてニカッと笑った。
「あの中学出身者は頼まれたらやる精神だろ?」
俺も同じ中学出身だからな、と笑う伊藤先生に二人は頭を抱えた。
「写真掲載もSNS投稿もひとまず俺を通してやってもらうから、撮ったものは全部俺に送ってくれ。ひとまず広報担当紹介だな」
伊藤先生はそう言うとポケットから自分の携帯端末を取り出すと二人にカメラを向けた。
「弓道着の男子二人なんて、ウケがいいんじゃないか」
カシャッと写真を撮る音がして、次に伊藤先生はたった今撮った写真を二人に見せる。画面には弓道着姿で並ぶ佐久間と泉の姿がしっかりと映し出されていた。
ポーズを取る間もなく撮影された写真だったが、それでも佐久間はやけに絵になっていた。佐久間の写真写りが良い分、より一層頼りなく見える隣に写る自分の姿に泉は苦笑いを浮かべた。



