「佐久間も泉もありがとな! お陰でいい宣伝が出来たよ」
伊藤先生はそう言うと二人から広報の腕章とデジタルカメラを預かった。
来年一月には入学試験の願書提出が始まるため、“広報”の仕事もひとまず年内で終わりだ。
「お前たちの撮った写真を学校のホームページに掲載して、説明会でも使用したがなかなか好評だったぞ」
伊藤先生は嬉しそうに言った。
どうやら説明会の時点では男子生徒は無事半数を占めていたらしい。このまま彼らが入学を志望して入学してくれれば一気に男子生徒の数が増えるだろう。
伊藤先生がそう言うと佐久間はあからさまに嫌な表情を浮かべた。
「俺は男子が増えるのは嫌なんだけど」
「そう言うなって。お前たちも暇な時に学校のホームページの写真を見てくれ」
とても好評だぞ、と言うと伊藤先生は去って行ってしまった。
部活の休憩時間、いつものコンクリートの上。未だ雪が降るほどではないが十二月の外は冷え込んでいた。
ダウンジャケットの下の弓道着の下には更に肌着を数枚重ねて着込んでいる。それでも寒い、とポケットに忍ばせておいたカイロを手で包む。
弓道場内も外同然で床板は冷たく、外気が吹き込む。今頃先輩たちは控えに敷かれたホットカーペットの上で皆で暖を取っていることだろう。
外も中も同じだ、と言って二人はいつもの場所に来ていた。
「あーあ、嫌だなぁ」
そう言った佐久間の口から白い息が吐き出されるのを泉は隣で見ていた。
「男に好かれるのは薫くんからだけで十分なのに」
それを聞いて泉は、あはは、と笑う。
「俺も由比先輩にモテられると困ります」
俺も増えてほしくないなぁ、と泉が言うと佐久間は嬉しそうに笑って泉の肩を抱き寄せた。分厚いダウンジャケット越しでも佐久間の温もりを感じ、身体が温まる感じがした。
「そうだ、ホームページ見てみます?」
ポケットから携帯端末を取り出し、学校名を検索する。
“聖ローズアンドリリー高等学校”
伊藤先生は写真が好評だと言っていた。写真を撮ったのは佐久間と泉の二人だったが、結局どの写真が掲載されたのか二人は知らない。
「えっ!?」
「はあ!?」
ホームページを開いてすぐ見えた文字に二人は声を上げた。そして顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
そこには光太郎が放送部で全国大会入賞したということ、真一が全国模試上位だということ、京之介が学外のバスケットボールユースチームで全国大会優勝したことが書かれていた。
二人の知らない場所で友人が、男子生徒たちが続々と好成績を残している。そのお陰もあり、学校の名前は全国に轟き、共学だということも無事知れ渡ることができたらしい。
きっとこれで来年度は男子生徒の入学も増えるだろう。
「なんだ、別に俺たちの写真のお陰じゃないですね」
「だな」
そう笑い合いながら画面をスクロールしていく。在校生、卒業生たちの残した大会成績の後に二人が撮った学校行事の写真が掲載されていた。
二人とも写真のプロではないため拙い写真だが、それでもみんなが楽しんでいる様子がまじまじと分かる良い写真だ。
佐久間にカメラを向けられた女子たちは皆笑顔で、泉にカメラを向けられた男子たちも皆笑顔を浮かべていた。
ここまで見ると一見男女比は感じない。
「結局いくら女子が多くても彼女はできなかったな」
佐久間がそう言うと泉が、そうですね、と答えて笑う。
結局周りにいくら女子がいようと、興味がなければ女子との関係は何も始まらなかったのだ。
ページを下までスクロールすると最後に一枚の写真が掲載されていた。それを見て二人は顔を見合わせて笑う。
佐久間の取り巻きの女子たちに囲まれている男子二人。真ん中にいるのは佐久間と泉の二人だった。
これではまるで女子が多くて男子が少ないことが顕著だとばれてしまう。
それでも真ん中で笑う二人はとても幸せそうに笑っていた。
(おわり)
伊藤先生はそう言うと二人から広報の腕章とデジタルカメラを預かった。
来年一月には入学試験の願書提出が始まるため、“広報”の仕事もひとまず年内で終わりだ。
「お前たちの撮った写真を学校のホームページに掲載して、説明会でも使用したがなかなか好評だったぞ」
伊藤先生は嬉しそうに言った。
どうやら説明会の時点では男子生徒は無事半数を占めていたらしい。このまま彼らが入学を志望して入学してくれれば一気に男子生徒の数が増えるだろう。
伊藤先生がそう言うと佐久間はあからさまに嫌な表情を浮かべた。
「俺は男子が増えるのは嫌なんだけど」
「そう言うなって。お前たちも暇な時に学校のホームページの写真を見てくれ」
とても好評だぞ、と言うと伊藤先生は去って行ってしまった。
部活の休憩時間、いつものコンクリートの上。未だ雪が降るほどではないが十二月の外は冷え込んでいた。
ダウンジャケットの下の弓道着の下には更に肌着を数枚重ねて着込んでいる。それでも寒い、とポケットに忍ばせておいたカイロを手で包む。
弓道場内も外同然で床板は冷たく、外気が吹き込む。今頃先輩たちは控えに敷かれたホットカーペットの上で皆で暖を取っていることだろう。
外も中も同じだ、と言って二人はいつもの場所に来ていた。
「あーあ、嫌だなぁ」
そう言った佐久間の口から白い息が吐き出されるのを泉は隣で見ていた。
「男に好かれるのは薫くんからだけで十分なのに」
それを聞いて泉は、あはは、と笑う。
「俺も由比先輩にモテられると困ります」
俺も増えてほしくないなぁ、と泉が言うと佐久間は嬉しそうに笑って泉の肩を抱き寄せた。分厚いダウンジャケット越しでも佐久間の温もりを感じ、身体が温まる感じがした。
「そうだ、ホームページ見てみます?」
ポケットから携帯端末を取り出し、学校名を検索する。
“聖ローズアンドリリー高等学校”
伊藤先生は写真が好評だと言っていた。写真を撮ったのは佐久間と泉の二人だったが、結局どの写真が掲載されたのか二人は知らない。
「えっ!?」
「はあ!?」
ホームページを開いてすぐ見えた文字に二人は声を上げた。そして顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
そこには光太郎が放送部で全国大会入賞したということ、真一が全国模試上位だということ、京之介が学外のバスケットボールユースチームで全国大会優勝したことが書かれていた。
二人の知らない場所で友人が、男子生徒たちが続々と好成績を残している。そのお陰もあり、学校の名前は全国に轟き、共学だということも無事知れ渡ることができたらしい。
きっとこれで来年度は男子生徒の入学も増えるだろう。
「なんだ、別に俺たちの写真のお陰じゃないですね」
「だな」
そう笑い合いながら画面をスクロールしていく。在校生、卒業生たちの残した大会成績の後に二人が撮った学校行事の写真が掲載されていた。
二人とも写真のプロではないため拙い写真だが、それでもみんなが楽しんでいる様子がまじまじと分かる良い写真だ。
佐久間にカメラを向けられた女子たちは皆笑顔で、泉にカメラを向けられた男子たちも皆笑顔を浮かべていた。
ここまで見ると一見男女比は感じない。
「結局いくら女子が多くても彼女はできなかったな」
佐久間がそう言うと泉が、そうですね、と答えて笑う。
結局周りにいくら女子がいようと、興味がなければ女子との関係は何も始まらなかったのだ。
ページを下までスクロールすると最後に一枚の写真が掲載されていた。それを見て二人は顔を見合わせて笑う。
佐久間の取り巻きの女子たちに囲まれている男子二人。真ん中にいるのは佐久間と泉の二人だった。
これではまるで女子が多くて男子が少ないことが顕著だとばれてしまう。
それでも真ん中で笑う二人はとても幸せそうに笑っていた。
(おわり)



