余命一年 桜咲く丘で君に会う

 校門の桜の花びらたちが風に吹かれている。春の匂いが気持ちいい。高校の入学式には多くの保護者や子供が集まっていた。ただ私は、ごちゃごちゃしたところは苦手だ。
「おはようございます!今日からうちの子がお世話になります。」
話しかけられた。同じクラスの子の母親か。
「…あ、おはようございます。」
思わず声が小さくなってしまった。失礼だと思われてしまっただろうか。幸いにもその人は気にせずに我が子のもとへと戻っていった。
「私のクラスは…四組か。」
小さくつぶやいた。「クラス表」と書いてある紙には、私が一年四組だと書いてある。校内マップを見渡す。どうやら四組は二階の一番端にあるそうだ。一年間、あの教室で勉強するのか…。お母さんを呼んで、校舎の中に入った。築20年くらいの、普通の校舎だ。
(目立たなそうなクラスで良かった。)
安心すると同時に、ちょっと呆れる。「目立たない人には目立たない教室がお似合いよ。」と言っているようなものじゃないか。しょうがないとは分かっている。私の名前は海辺 瑠璃。いかにも「青」な名前だが、好きな色はピンク。地味で冴えないブス。特徴も特になく、長所も短所も特になし。ちょっと引っ込み思案かも。大好きだったお父さんは、二年前に、事故で亡くなってしまったんだ。お父さんもいないんじゃ、何も挑戦できない。そう思ったけど、お母さんに『勉強はやれ』って言われたから、受験してみたら、なんと受かった。自分でもびっくりだ。でも、正直嬉しくなかった。自分からやりたかったわけではなく、お母さんに勧められてやったことだから。
(最近のお母さん、なんか豊田さんのことばっかり。)
豊田さんは、お母さんの再婚相手。私の入学式のはずなのに、お母さんは豊田さんとメッセージアプリでやり取りしながらニヤニヤしている。デートの誘いでもあったのだろうか。子供のことそっちのけで、文字を打ち込んでいた。
「お母さん、教室に着いたよ。…お母さん。聞いてる?」
「…え?え、ええ。ここが、瑠璃の教室ね。あ、メッセージ来てる!ご、ごめんね。お母さんちょっとトイレ…」
「いいよ。勝手にして。」
分かっている。お母さんは、トイレに行くわけではなくて、メッセージの返信をしようとしていたことなんて。そんなこと、誰よりも分かっている。お母さんは、豊田さんと結婚した時、私にも「豊田」という性にしてもらいたかったようだ。だが、私はどうしても嫌だった。「豊田 瑠璃」になるのがどうしても嫌だった。だって…そうしたら、性も名も平凡になってしまうのだから。せめて、「海辺」でいたかった。「海辺」だったら、ちょっと平凡じゃなくなるから。「『うみべ』ってすごい名前だね!」って言われたことがあるから。名前は、名前だけは、平凡じゃ嫌。だから私は…性を「豊田」にしたくなかった。全てが平凡な私だからこその理由だ。お母さんの影響かもしれない。私は…恋が、苦手だ。この頃は…思ってもいなかった。私が、恋をするなんて―。