彼の死を知ったのは、二人で同じ高校に合格したお祝いでどこか出かけよう、と話していた冬の終わり頃だった。親伝いで聞くことになった私は、感情がどこかへ行ってしまったように涙が流れなかった。どこか信じていなかった。まさか、そんなことあるわけないよ、と思っていた。
何人もの鼻を啜る音がこの場に響き渡るお葬式の会場。感情だけではなく私の耳は壊れてしまって。音という概念がない空間に来てしまったような。聞こえているのに音として認識できないような。
「うそ…ついたの………っ…?」
二人のお祝いは?
中学校の時から一緒に入っていた天文部と写真部を続ける約束は?
予定よりも約2ヶ月早く着る、準備したばっかりの制服のスカートの裾を、思い切り握りしめて彼が眠る箱に近寄る。彼も親の願いで真新しい制服に身を包んでいる。
放課後の教室。いつも私の隣で、課題やる、と言いながら寝ていた、真っ白な肌とほんの少し赤い頬で私よりも可愛いが似合う彼の顔。
何か嫌なことがあれば必ず浜辺で私の話を飽きることなく聞いてくれた彼。
そんな彼と、一緒にくだらない言葉遊びをした。
意見が違うものをお互い語った。
部活の学校外での活動に疲れたらじゃんけんで飲み物をかけてみたりした。
その自動販売機でまた、二人で写真の練習をした。
自分達の幼少期の話をした。
何度目かわからない好きな食べ物の話をした。
ずっとお互い変わらないね、って二人で笑って。
次は飲み物の話をした。
今夢中なものをお互い紹介したりした。
前に話した時とやっぱりあまり変わらなかった。
最後の晩餐に何が食べたいかの話をした。
結局好きな食べ物だった。
二人だけの天文台に向かう道で疲れたら、小さなお店に入ってお互いの好きなメニューを頼んだ。
二人でそのお店の看板を撮った。
お互いの好きな味を、ずっと好きでいた。
また天文台に歩き始めては最近の愚痴をお互いに漏らしたりした。
少しずつ日が傾いてきたら、二人で夕日を撮る練習をした。
真っ白な彼の横顔を、夕日が染める。
でも今は、その時よりも遥かに顔を白くして眠っている。
ただ周りより少し高くてただ柵があるだけだけど、二人の間では天文台と呼んでいた。
流星群が見える日や、二人の星座である牡牛座が見える日は一緒に天文台まで歩いた。
そこで写真の練習をした。星座の観察をした。
毎年牡牛座は忘れず一緒に観察に行ったのに、今年は一人で行ったんだ。
そこで君は、自分を。
「ねえ、いつからなの……あの時は一緒に笑って映画を見たし…その次は放課後一緒にゆっくりお家まで歩いて…途中で一緒に写真を撮って…」
いつだって私の隣で笑ってくれていて。
「部活だって楽しいねって、言ってた………あぁ、そっか…」
連絡を受けた時も彼の最期の心情なんて考えられなかった。ただただ瞼の裏がスクリーンになってしまったように彼との思い出がとめどなく溢れるだけで。
「私は信じてたいんだ……良い思い出を考えて、こんな現実消して…初めからこんなことはなかったって…私一人だけだとしても信じてたい………」
こんなにも君を想っていたのに。大好きだったはずなのに。どんなに願っても目を覚まさない。どんなに名前を呼んでも。
「…とう…や…冬夜…」
ずっと、君の、月島冬夜のことなんていない人だと思ってた。みんなだけ知ってるのか、不思議だな、としか思ってなかった。でも、私が私を守るために勝手に忘れていただけで。
「…そっか…コウセイくんは…冬夜だよね…」
今だけは、私の前に彼がいる。そう、私をころしてくれる人。
ふと、二人で一緒に勉強した星についてを思い出す。
『おうし座の一等星、アルデバラン。赤橙色に輝く、最も明るい…』
「恒星……アルデバランは…冬の夜に見える…コウセイだ…」
「そうだよ、たった一日だけだけど、君を救いに来たんだ」
だから、浜辺に何か思い出があるか、考えたとしても何一つ思い当たらないのにいつからか私の大事な場所だったんだ。
シャッターを押す彼を見ると、生きていることを確認できるんだ。
天文台に、来たことがあるような気持ちになったんだ。
私の名前を、誕生日を、知っていたんだ。
だから、コウセイくんは、君は、彼は、私をころしてくれるんだね。
私のために、生きてくれるんだね。
私の名前を、呼んでくれて。
私をころしてくれるほど、愛してくれるんだね。
「六夏。」
「…コウセ………冬夜……」
「でももう、さよならだね」
「待って。嫌だよ、生きていけない。君がいないなら…冬夜がいないなら、生きてなんかいけないよ…もう私を置いて行かないで」
あのお葬式の日から、私は死んだような日々だった。でも今思えば高校の入学式の日から、冬夜が私の中で消えちゃったんだ。冬夜がいない日々が苦しすぎて私が勝手に消してしまった。でも本当は、私も冬夜も、そんなこと望まなかった。
「もう、ころしてほしい……よ…」
「ころせないよ…だってこれは僕の…」
「…え…?」
牡牛座は夏の初めは太陽の裏側にいて、見ることができない。
なのに。
「なんで…」
今、確かに一瞬だけ夜空に牡牛座が見えた。
そして一等星、アルデバランが赤橙色に輝いた瞬間。
彼はしにました—。
何人もの鼻を啜る音がこの場に響き渡るお葬式の会場。感情だけではなく私の耳は壊れてしまって。音という概念がない空間に来てしまったような。聞こえているのに音として認識できないような。
「うそ…ついたの………っ…?」
二人のお祝いは?
中学校の時から一緒に入っていた天文部と写真部を続ける約束は?
予定よりも約2ヶ月早く着る、準備したばっかりの制服のスカートの裾を、思い切り握りしめて彼が眠る箱に近寄る。彼も親の願いで真新しい制服に身を包んでいる。
放課後の教室。いつも私の隣で、課題やる、と言いながら寝ていた、真っ白な肌とほんの少し赤い頬で私よりも可愛いが似合う彼の顔。
何か嫌なことがあれば必ず浜辺で私の話を飽きることなく聞いてくれた彼。
そんな彼と、一緒にくだらない言葉遊びをした。
意見が違うものをお互い語った。
部活の学校外での活動に疲れたらじゃんけんで飲み物をかけてみたりした。
その自動販売機でまた、二人で写真の練習をした。
自分達の幼少期の話をした。
何度目かわからない好きな食べ物の話をした。
ずっとお互い変わらないね、って二人で笑って。
次は飲み物の話をした。
今夢中なものをお互い紹介したりした。
前に話した時とやっぱりあまり変わらなかった。
最後の晩餐に何が食べたいかの話をした。
結局好きな食べ物だった。
二人だけの天文台に向かう道で疲れたら、小さなお店に入ってお互いの好きなメニューを頼んだ。
二人でそのお店の看板を撮った。
お互いの好きな味を、ずっと好きでいた。
また天文台に歩き始めては最近の愚痴をお互いに漏らしたりした。
少しずつ日が傾いてきたら、二人で夕日を撮る練習をした。
真っ白な彼の横顔を、夕日が染める。
でも今は、その時よりも遥かに顔を白くして眠っている。
ただ周りより少し高くてただ柵があるだけだけど、二人の間では天文台と呼んでいた。
流星群が見える日や、二人の星座である牡牛座が見える日は一緒に天文台まで歩いた。
そこで写真の練習をした。星座の観察をした。
毎年牡牛座は忘れず一緒に観察に行ったのに、今年は一人で行ったんだ。
そこで君は、自分を。
「ねえ、いつからなの……あの時は一緒に笑って映画を見たし…その次は放課後一緒にゆっくりお家まで歩いて…途中で一緒に写真を撮って…」
いつだって私の隣で笑ってくれていて。
「部活だって楽しいねって、言ってた………あぁ、そっか…」
連絡を受けた時も彼の最期の心情なんて考えられなかった。ただただ瞼の裏がスクリーンになってしまったように彼との思い出がとめどなく溢れるだけで。
「私は信じてたいんだ……良い思い出を考えて、こんな現実消して…初めからこんなことはなかったって…私一人だけだとしても信じてたい………」
こんなにも君を想っていたのに。大好きだったはずなのに。どんなに願っても目を覚まさない。どんなに名前を呼んでも。
「…とう…や…冬夜…」
ずっと、君の、月島冬夜のことなんていない人だと思ってた。みんなだけ知ってるのか、不思議だな、としか思ってなかった。でも、私が私を守るために勝手に忘れていただけで。
「…そっか…コウセイくんは…冬夜だよね…」
今だけは、私の前に彼がいる。そう、私をころしてくれる人。
ふと、二人で一緒に勉強した星についてを思い出す。
『おうし座の一等星、アルデバラン。赤橙色に輝く、最も明るい…』
「恒星……アルデバランは…冬の夜に見える…コウセイだ…」
「そうだよ、たった一日だけだけど、君を救いに来たんだ」
だから、浜辺に何か思い出があるか、考えたとしても何一つ思い当たらないのにいつからか私の大事な場所だったんだ。
シャッターを押す彼を見ると、生きていることを確認できるんだ。
天文台に、来たことがあるような気持ちになったんだ。
私の名前を、誕生日を、知っていたんだ。
だから、コウセイくんは、君は、彼は、私をころしてくれるんだね。
私のために、生きてくれるんだね。
私の名前を、呼んでくれて。
私をころしてくれるほど、愛してくれるんだね。
「六夏。」
「…コウセ………冬夜……」
「でももう、さよならだね」
「待って。嫌だよ、生きていけない。君がいないなら…冬夜がいないなら、生きてなんかいけないよ…もう私を置いて行かないで」
あのお葬式の日から、私は死んだような日々だった。でも今思えば高校の入学式の日から、冬夜が私の中で消えちゃったんだ。冬夜がいない日々が苦しすぎて私が勝手に消してしまった。でも本当は、私も冬夜も、そんなこと望まなかった。
「もう、ころしてほしい……よ…」
「ころせないよ…だってこれは僕の…」
「…え…?」
牡牛座は夏の初めは太陽の裏側にいて、見ることができない。
なのに。
「なんで…」
今、確かに一瞬だけ夜空に牡牛座が見えた。
そして一等星、アルデバランが赤橙色に輝いた瞬間。
彼はしにました—。



