何人もの鼻を啜る音がこの場に響き渡る。それでも私の耳は壊れてしまって。音という概念がない空間に来てしまったような。聞こえているのに音として認識できないような。

「うそ…ついたの………っ…?」

予定よりも2ヶ月早く着る、準備したばっかりの制服のスカートの裾を、思い切り握りしめて彼が眠る箱に近寄る。
放課後の教室。いつも私の隣で、課題やる、と言いながら寝ていた、真っ白な肌とほんの少し赤い頬で私よりも可愛いが似合う彼の顔。
でも今はその時よりも遥かに顔を白くして眠っている。

「ねえ、いつからなの……あの時は一緒に笑って映画を見たし…その次は放課後一緒にゆっくりお家まで歩いて…」

いつだって私の隣で笑ってくれていて。

「部活だって楽しいねって、言ってた………あぁ、そっか…」

連絡を受けた時も彼の最期の心情なんて考えられなかった。ただただ瞼の裏がスクリーンになってしまったように彼との思い出がとめどなく溢れるだけで。

「私は信じてたいんだ……良い思い出を考えて、こんな現実消して…初めからこんなことはなかったって…私一人だけだとしても信じてたい………」

こんなにも君を想っていたのに。大好きだったはずなのに。どんなに願っても目を覚まさない。どんなに名前を呼んでも。

「…とう…や…冬夜…そう…だよね。…わかってる…でも。」

捜してしまう。私はいつもの声で「六夏(りっか)」って呼ぶ彼の姿を捜している。

彼はしにました。
世界で一番美しいと信じていたはずの私たちの恋は、勝手に消えてゆきました。
あまりにも残酷な形で。
私だけを、置いて行く形で。
私がたった一人、この世界に残る形で。
どんなに泣き叫んだって、置いて行かれた私を乗せて、勝手に回るこの世界。
そんな世界が、どうにかなってしまえばいいのにと思う。

こんな苦しいなら、君に出会いたくなかった。
私の大好きに、したくなんてなかったよ。

彼は、真っ黒の空に赤橙色の星が輝いている寒い夜。

私をころしました―。