2
次の日の放課後、わたし達の目の前にあったのは昨日と同じ手紙だった。
宛先は木崎奏宛で昨日見たものと同じ封筒だった。消印も同じ。中には紙片が一枚
これも昨日と同じくコピー用紙に印刷されたものを丁寧に切り取ったものだった。
そこには、一言、
『嘘つきは誰?』
またもやそう書かれていた。
それを持ち込んだ奏は
「どういう事なんでしょうか?」
それだけ言うと黙り込んでしまった。
木崎奏さんは響と顔はそっくりだが、確かに、性格は真逆のようだった。
「奏さんの心労わかるとは言いませんが、お察しします」
「まずは、昨日の手紙を預かっていますから、比べてみましょうか」
雪乃先輩は昨日の手紙を取り出すと丹念に見比べる。それは奏への気遣いのように見えた。たっぷり十五分は比較すると
「やはり、同じものですね」
テーブルの上に二通の手紙を並べると、そう結論づけた。
「消印の日付も同じでしたね。まあ消印が同じでも日をまたいで届くこと自体はあるのでしょうが。
お姉さんと本来は同じ日に届くように出されたのでしょうか」
沈黙が落ちた——
いつの間にか降り出した雨と、お茶を淹れるための電気ケトルが世界から音が失われていない事を証明し続けている。
「では奏さんのお考えをお話してください」
かちりというスイッチの音がお湯の準備が整った事を告げると雪乃先輩は口を開いた。
相談に乗ってくれるとわかった奏は安心したのか少しホッとした様子で話を始める。
「嘘つき。なんて言われてもね、もともと三人で付き合うっていうのも嘘といえば噓じゃない?」
「何を嘘というかは人それぞれですよね」
響の話を聞いた後と同じようなことを雪乃先輩は微笑みながら言った。
「三人のご関係について奏さんからもしっかりお聞きしたいのですが」
「響が適当な説明をしたのね、あの子は昔からああだから……」
「響はふわふわしてて明るくてね。だからすごくモテるんだよね。でもちゃんと私が手綱引いてあげないとっていうか」
「同じ顔の人間が人気あるのは悪い気はしないけどね」
「でもやっぱり多感な時期ってやつ?そう言うので響ともちょっと疎遠な時期もあってね」
なんとなく響から聞いていたすごく仲良しという感じとは違う印象だけれど双子はこういうものなかもしれない。
「そうなんですね、響さんは奏さんとはずっと仲良しとおっしゃっていましたけれど」
同じ疑問を持ったのか雪乃先輩が相槌を入れる。
「はは、響から見たらそうかもね、実際はそうでもなかったんじゃないかな」
「でもね、詩と三人になってからはすごく気が楽っていうのとも違うけど、なんて言えばいいんだろうね」
「私もこうですから、奏さんのお気持ちわかる気はします」
そう言うと雪乃先輩はキラキラと輝く毛先を弄びながら目を伏せる。
その様子に感じ入るところがあったのか奏さんは何度か頷いてから続ける。
「詩は本当にすごいのよ。ちょっとやりすぎなところもあるけれどね」
「最初ダンス部に来て変な子だなって本気にしてなかったんだけどね」
「いつもみたいに響が目当てなんだろうって、そう思ってたんだけど」
「二人が好きって言われたら悪い気もしなくて」
「メイクの技術もね。元々の顔ももちろん結構似てるんだけど、私たちのこと好き!って言ったと思ったら一か月もしないうちにもうそっくり。顔や仕草の研究をすごくしているみたいで、遠目だとほんとに見分けつかないくらい」
「学校帰りに双子の私が詩と響と間違っちゃったこともあるのよ」
感心しきりという具合で詩を褒める奏。
「ここだけの話、詩は私に似せてくれてるの」
秘密の打ち明け話をあったばかりの人間にしてしまう気安さだけは響そっくりだなと思ってしまう。
「情熱っていうか、これが愛なんですかね」
心底感心したように雪乃先輩は感嘆の声を漏らす。
「人格までなりきるっていうか。詩はそんな感じなの」
「うちの萌花さんにもやってもらおうかな」
「雪乃さんに似せるのは詩でも無理だと思うよ」
すっかりリラックスした様子で笑いながら奏は言った。
あれ、こっそり馬鹿にされてるのかも?
いや、雪乃先輩がすごすぎるから、美人すぎるからって言うことよね……
きっとそう、うん、まあ逆立ちしても無理だもの。そう自分を慰める。
ひとしきり三人について語ると、奏は
「じゃあ、よろしくね」
そう言って出て行った。
「わたし、髪だけでも伸ばしましょうか?」
二人きりになった室内で、自分でも思ってもみないことを呟いてしまう。
「萌花ちゃんが目隠れヘアじゃなくなったら、私、嫌だな」
「私ってそんなに自分のこと好きなように見えるのかな?」
雪乃先輩は芝居がかった仕草で大きなため息をつく。
「す、すいません」
真っ赤になったのがバレないようにお茶を淹れ直しに行く。シンクで準備をしながら振り返らずに
「奏先輩は嘘つき……でしょうか?」
「うーん、そうだねえ」
「もかちゃんは三人のうちなら誰が好き?」
話題を変える雪乃先輩。
「えっ、いや、その……うーん……実は詩先輩なんです」
「会ってないんで話の印象だけですけど」
「ちょっと意外」
雪乃先輩は本当はどう思っているのか判断がつかない微妙な表情でそう言ってから
「どうして?」
今度は本当に不思議そうにそう聞いた。
「努力……してるからですかね?」
「好きな人に振り向いて欲しくて……そんな事まで出来ちゃうんだなあ……って」
「ちょっと——いや本当にすごいなって。わたしには無理ですから」
「あら、ちょっとショック、もかは私のためになんでもしてくれないの?」
こういう時だけ(プラス二人きりの時に限る)呼び捨てにしてくる先輩に困ってしまう。
「えっ、いや、雪乃先輩に言われたら山に人埋めるくらいはしますけど……」
「カプサイシン……忘れないでね」
「え、カプ……トウガラシ??何に使うんですか?」
「野犬が掘り返しちゃうらしいのよ。漫画で読んだの」
「何の話ですか」
「漫画の話かな?」
二人で声を出して笑う。
雪乃先輩も漫画なんて読むんだなあ、しかも犯罪系?と意外な気持ちになる。
「もかちゃんは愛する人を肯定して止めない、そういうタイプなんだねえ」
「わたし、世界の事がどうとかあんまり気にしないのかもしれません。だって知らない人ですし」
遠くの知らない誰かよりも、近くの大切な人を大切にしたい……というのは変だろうか?自分勝手かもしれないとは思うけれど。
こういうことは面と向かって聞かれないとしっかり考えないものだなと自己分析をする。
絶対にそんなことは起きない。
そう断言できるからかもしれないけれど、血まみれで手に包丁を持った雪乃先輩が、笑顔で、あるいは——泣きながら、一緒に手伝って……そう言ってきた時、「自首してください」とは言わないだろうな。
その部分にだけは妙な自信がある。やっぱりわたしは少しおかしいのだろうか。
考え込んでいると、雪乃先輩はさらにわたしの心をかき乱すことを言ってくる。
「でもね、もかちゃん、その『知らない人』が……誰かの大切な人だったりしてね」
「それが巡り巡って——もかちゃんの好きな人の大切な人だったらどうする?」
言葉に詰まってしまう。そんな事を言われても困ってしまう。
でも、そんな事を言ったら何も——生きていくことさえ出来なくなってしまうのでないだろうか?思いっきり考え込んでしまう……
「ごめんね、いっつも意地悪しちゃうね」
「もかちゃん可愛いからね、すぐいじめたくなっちゃうの」
「せ、先輩は……わたしが悪いことしたらやっぱり自首しろって言いますか?」
「ううーん、どうしようかなあ、完全犯罪ってやったことないんだよねえ」
「状況によるって言ったら卑怯かな?」
「ちょっとずるいです」
「やっぱりそうかな。でも、殺意がないのにやっちゃったら自首を勧めるかも」
「殺意ないんだしね」
「なんだか違う話になってきちゃってますね」
笑って話す話題ではないのだけれど、ミステリ好きとしての思考実験と思うことにしておこう。
先輩も同じ気持ちのようで柔らかく微笑んでいる。
その日は結局、話の内容が二人の好きな完全犯罪に移り変わってしまって、不思議な手紙と双子の話もそれ以上することはなかった。帰り道は学校での授業のような、どこにでもある学生の先輩後輩の会話に終始した。
雪乃先輩は珍しくクラスの話も少ししてくれた。
夕暮れがいつもより赤く——まるで血のように見えてしまうのは変な話をしてしまったせいだろうか?結構影響されやすい性格だなと考えながら朱に染まる街並みを歩く。
雪乃先輩からは出来るだけいい方向に影響を受けようと心に誓いながら、赤い空にどことない不安を感じたわたしは、昨日買ったお揃いのロザリオをポケットの中でそっと撫でた。
「さっきの話の続きなんだけど……」
「もかちゃんが怪人で真犯人で私が名探偵っていう物語を考えていたの」
雪乃先輩は唐突に話題を変える。
「真の黒幕がワトスンって感じなんですね」
結構しぶとく考え続けるタイプなんだなぁ?と、ぼんやりとした相槌を返してしまう。
「ちょっとありきたりって思ってる?あんまりセンスないのよね……」
しょんぼりした口ぶりの雪乃先輩の横顔に夕陽が当たっていつもとは違う顔に見える。
「探偵が謎を解決するために事件を起こしてくれる相棒なの……」
「どう?」
「どう……でしょうね。だいぶサイコパスな気はしますけど」
「わたし、そんなタイプですか?」
「意外と、そんなタイプな気がする」
雪乃先輩はやっと笑ってくれた。
次の日の放課後、わたし達の目の前にあったのは昨日と同じ手紙だった。
宛先は木崎奏宛で昨日見たものと同じ封筒だった。消印も同じ。中には紙片が一枚
これも昨日と同じくコピー用紙に印刷されたものを丁寧に切り取ったものだった。
そこには、一言、
『嘘つきは誰?』
またもやそう書かれていた。
それを持ち込んだ奏は
「どういう事なんでしょうか?」
それだけ言うと黙り込んでしまった。
木崎奏さんは響と顔はそっくりだが、確かに、性格は真逆のようだった。
「奏さんの心労わかるとは言いませんが、お察しします」
「まずは、昨日の手紙を預かっていますから、比べてみましょうか」
雪乃先輩は昨日の手紙を取り出すと丹念に見比べる。それは奏への気遣いのように見えた。たっぷり十五分は比較すると
「やはり、同じものですね」
テーブルの上に二通の手紙を並べると、そう結論づけた。
「消印の日付も同じでしたね。まあ消印が同じでも日をまたいで届くこと自体はあるのでしょうが。
お姉さんと本来は同じ日に届くように出されたのでしょうか」
沈黙が落ちた——
いつの間にか降り出した雨と、お茶を淹れるための電気ケトルが世界から音が失われていない事を証明し続けている。
「では奏さんのお考えをお話してください」
かちりというスイッチの音がお湯の準備が整った事を告げると雪乃先輩は口を開いた。
相談に乗ってくれるとわかった奏は安心したのか少しホッとした様子で話を始める。
「嘘つき。なんて言われてもね、もともと三人で付き合うっていうのも嘘といえば噓じゃない?」
「何を嘘というかは人それぞれですよね」
響の話を聞いた後と同じようなことを雪乃先輩は微笑みながら言った。
「三人のご関係について奏さんからもしっかりお聞きしたいのですが」
「響が適当な説明をしたのね、あの子は昔からああだから……」
「響はふわふわしてて明るくてね。だからすごくモテるんだよね。でもちゃんと私が手綱引いてあげないとっていうか」
「同じ顔の人間が人気あるのは悪い気はしないけどね」
「でもやっぱり多感な時期ってやつ?そう言うので響ともちょっと疎遠な時期もあってね」
なんとなく響から聞いていたすごく仲良しという感じとは違う印象だけれど双子はこういうものなかもしれない。
「そうなんですね、響さんは奏さんとはずっと仲良しとおっしゃっていましたけれど」
同じ疑問を持ったのか雪乃先輩が相槌を入れる。
「はは、響から見たらそうかもね、実際はそうでもなかったんじゃないかな」
「でもね、詩と三人になってからはすごく気が楽っていうのとも違うけど、なんて言えばいいんだろうね」
「私もこうですから、奏さんのお気持ちわかる気はします」
そう言うと雪乃先輩はキラキラと輝く毛先を弄びながら目を伏せる。
その様子に感じ入るところがあったのか奏さんは何度か頷いてから続ける。
「詩は本当にすごいのよ。ちょっとやりすぎなところもあるけれどね」
「最初ダンス部に来て変な子だなって本気にしてなかったんだけどね」
「いつもみたいに響が目当てなんだろうって、そう思ってたんだけど」
「二人が好きって言われたら悪い気もしなくて」
「メイクの技術もね。元々の顔ももちろん結構似てるんだけど、私たちのこと好き!って言ったと思ったら一か月もしないうちにもうそっくり。顔や仕草の研究をすごくしているみたいで、遠目だとほんとに見分けつかないくらい」
「学校帰りに双子の私が詩と響と間違っちゃったこともあるのよ」
感心しきりという具合で詩を褒める奏。
「ここだけの話、詩は私に似せてくれてるの」
秘密の打ち明け話をあったばかりの人間にしてしまう気安さだけは響そっくりだなと思ってしまう。
「情熱っていうか、これが愛なんですかね」
心底感心したように雪乃先輩は感嘆の声を漏らす。
「人格までなりきるっていうか。詩はそんな感じなの」
「うちの萌花さんにもやってもらおうかな」
「雪乃さんに似せるのは詩でも無理だと思うよ」
すっかりリラックスした様子で笑いながら奏は言った。
あれ、こっそり馬鹿にされてるのかも?
いや、雪乃先輩がすごすぎるから、美人すぎるからって言うことよね……
きっとそう、うん、まあ逆立ちしても無理だもの。そう自分を慰める。
ひとしきり三人について語ると、奏は
「じゃあ、よろしくね」
そう言って出て行った。
「わたし、髪だけでも伸ばしましょうか?」
二人きりになった室内で、自分でも思ってもみないことを呟いてしまう。
「萌花ちゃんが目隠れヘアじゃなくなったら、私、嫌だな」
「私ってそんなに自分のこと好きなように見えるのかな?」
雪乃先輩は芝居がかった仕草で大きなため息をつく。
「す、すいません」
真っ赤になったのがバレないようにお茶を淹れ直しに行く。シンクで準備をしながら振り返らずに
「奏先輩は嘘つき……でしょうか?」
「うーん、そうだねえ」
「もかちゃんは三人のうちなら誰が好き?」
話題を変える雪乃先輩。
「えっ、いや、その……うーん……実は詩先輩なんです」
「会ってないんで話の印象だけですけど」
「ちょっと意外」
雪乃先輩は本当はどう思っているのか判断がつかない微妙な表情でそう言ってから
「どうして?」
今度は本当に不思議そうにそう聞いた。
「努力……してるからですかね?」
「好きな人に振り向いて欲しくて……そんな事まで出来ちゃうんだなあ……って」
「ちょっと——いや本当にすごいなって。わたしには無理ですから」
「あら、ちょっとショック、もかは私のためになんでもしてくれないの?」
こういう時だけ(プラス二人きりの時に限る)呼び捨てにしてくる先輩に困ってしまう。
「えっ、いや、雪乃先輩に言われたら山に人埋めるくらいはしますけど……」
「カプサイシン……忘れないでね」
「え、カプ……トウガラシ??何に使うんですか?」
「野犬が掘り返しちゃうらしいのよ。漫画で読んだの」
「何の話ですか」
「漫画の話かな?」
二人で声を出して笑う。
雪乃先輩も漫画なんて読むんだなあ、しかも犯罪系?と意外な気持ちになる。
「もかちゃんは愛する人を肯定して止めない、そういうタイプなんだねえ」
「わたし、世界の事がどうとかあんまり気にしないのかもしれません。だって知らない人ですし」
遠くの知らない誰かよりも、近くの大切な人を大切にしたい……というのは変だろうか?自分勝手かもしれないとは思うけれど。
こういうことは面と向かって聞かれないとしっかり考えないものだなと自己分析をする。
絶対にそんなことは起きない。
そう断言できるからかもしれないけれど、血まみれで手に包丁を持った雪乃先輩が、笑顔で、あるいは——泣きながら、一緒に手伝って……そう言ってきた時、「自首してください」とは言わないだろうな。
その部分にだけは妙な自信がある。やっぱりわたしは少しおかしいのだろうか。
考え込んでいると、雪乃先輩はさらにわたしの心をかき乱すことを言ってくる。
「でもね、もかちゃん、その『知らない人』が……誰かの大切な人だったりしてね」
「それが巡り巡って——もかちゃんの好きな人の大切な人だったらどうする?」
言葉に詰まってしまう。そんな事を言われても困ってしまう。
でも、そんな事を言ったら何も——生きていくことさえ出来なくなってしまうのでないだろうか?思いっきり考え込んでしまう……
「ごめんね、いっつも意地悪しちゃうね」
「もかちゃん可愛いからね、すぐいじめたくなっちゃうの」
「せ、先輩は……わたしが悪いことしたらやっぱり自首しろって言いますか?」
「ううーん、どうしようかなあ、完全犯罪ってやったことないんだよねえ」
「状況によるって言ったら卑怯かな?」
「ちょっとずるいです」
「やっぱりそうかな。でも、殺意がないのにやっちゃったら自首を勧めるかも」
「殺意ないんだしね」
「なんだか違う話になってきちゃってますね」
笑って話す話題ではないのだけれど、ミステリ好きとしての思考実験と思うことにしておこう。
先輩も同じ気持ちのようで柔らかく微笑んでいる。
その日は結局、話の内容が二人の好きな完全犯罪に移り変わってしまって、不思議な手紙と双子の話もそれ以上することはなかった。帰り道は学校での授業のような、どこにでもある学生の先輩後輩の会話に終始した。
雪乃先輩は珍しくクラスの話も少ししてくれた。
夕暮れがいつもより赤く——まるで血のように見えてしまうのは変な話をしてしまったせいだろうか?結構影響されやすい性格だなと考えながら朱に染まる街並みを歩く。
雪乃先輩からは出来るだけいい方向に影響を受けようと心に誓いながら、赤い空にどことない不安を感じたわたしは、昨日買ったお揃いのロザリオをポケットの中でそっと撫でた。
「さっきの話の続きなんだけど……」
「もかちゃんが怪人で真犯人で私が名探偵っていう物語を考えていたの」
雪乃先輩は唐突に話題を変える。
「真の黒幕がワトスンって感じなんですね」
結構しぶとく考え続けるタイプなんだなぁ?と、ぼんやりとした相槌を返してしまう。
「ちょっとありきたりって思ってる?あんまりセンスないのよね……」
しょんぼりした口ぶりの雪乃先輩の横顔に夕陽が当たっていつもとは違う顔に見える。
「探偵が謎を解決するために事件を起こしてくれる相棒なの……」
「どう?」
「どう……でしょうね。だいぶサイコパスな気はしますけど」
「わたし、そんなタイプですか?」
「意外と、そんなタイプな気がする」
雪乃先輩はやっと笑ってくれた。
