茜空の花言葉

「大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」
ハッと我に返ると、旭高の制服を着た女の子の足元に誰かが倒れている。
「無理に起こさないで!」
僕は慌てて二人に駆け寄った。
「君はこの人が倒れるところを見たの?」
「ううん。今、倒れてるのを見つけたの」
「電話を持っていたら救急車を呼んで」
「わかった!」
救急車はすぐに来た。その音で気が付いたのか、倒れた人の家族らしき人が慌てて向かいの店から出てきた。
「あなた!」
奥さんらしき人が駆け寄る。
僕たちは救急隊員に状況を説明し、家族を乗せた救急車を見送った。
その後、電話をしてくれた女の子がキラキラした目で話しかけてきた。
「ねぇ! どうしてあんなにテキパキできるの? かっこいい!」
「え……」
そんなことを言われたことがないから、どう返して良いかわからない。
「ねぇ、どこに住んでるの? うちの制服だよね? 私は茜! あなたは?」
女の子は突然矢継ぎ早に話しかけてきた。
強引な雰囲気を、誰かに似てるなぁと感じながら、僕は質問に丁寧に答えていった。
「僕は東方空(ひがしかたそら)。旭高に今日入学しました。下沢(しもざわ)に住んでいます」
すると茜さんはにっこり笑いながら僕の手を引いて
「下沢! うちと近い! 一緒に帰ろっか!」
必然的に手をつないで歩く。というか、引っ張られて連れられている僕。

ええっ! どどどうしよう!

戸惑ってはいるけれど何故か心地良いのは、この強引さがどことなくアイツ()に似ているからなのか。
手を引かれてグングン進む。
「ここらへん?」
「もう少し駅寄りです」
「喫茶アモールの近く?」
「あ、近い」
「じゃあ今度はアモールでデートかな?」
「え?」
聞きなれない言葉が耳に入ってきたけど気のせいだろうか。僕が軽く戸惑っているうちにアモールを過ぎて細い路地に入る。
「あ、もうこの先行ったらすぐ」
「どこ?」
路地の出口から自分のアパートを指差す。
「あのアパート」
そう答えた途端、路地に連れ戻される。