いつまでそこにいただろう。すっかり暗くなってしまった道をトボトボと歩く。
僕は今も泣いているだろうか?それとも笑っているんだろうか?
「鏡がないからわからないな」
誰に言うわけでもなく呟く。
「お腹、空いたな」
また呟いて、開いているお店を探す。
パンでも買って歩きながら食べようかとお店に入ると、今日見たばかりの顔が近付いてきて、いきなり両手で僕の顔を覆った。
「だーれだ?」
「それは後ろからやるもんだよ」
けれど玄は僕の声を聞いても僕の顔を覆ったまま、入り口近くまで僕を押していった。
そして僕の身体を右に向かせて
「お前面白い顔してるから、とりあえずこれ持ってまっすぐ行けよ」
と、ポケットティッシュを持たせて僕を洗面所に送り出した。
ああ、そういうことか。
涙と鼻水と汗とでぐちゃぐちゃになった僕の顔は確かに面白かった。
水に濡らしたティッシュで顔を拭くと、まぶたが膨らんで一重になった僕が現れた。
「さっきとあんまり変わらないな」
洗面所の前で待っていた玄が笑った。
パンとコーヒーを買って、玄と共にお店を出る。コーヒーを飲みながら並んで歩く。だんだんと街灯が少なくなって、住宅街に入った。
「彼女にさ、嫌われたかもしれないんだ」
言葉に出した後、自分自身に現実を突きつけられて胸が苦しくなる。
「嫌われたかもしれないってことは、嫌われてないかもしれないってことだよな?」
「そうだけど……でもきっと」
玄は立ち止まって僕を見つめた。
「なぁ、茜ちゃんになんて言われたんだ?」
「少し時間が欲しいって。また連絡するって」
そう答えると玄は真っ白な歯を見せてニッと笑い
「じゃあ、時間を与えてやれよ。連絡を待ってやれよ」
そう言って僕の肩をバンバンと叩いた。
玄にかかると全ての悩みが簡単な問題に思えてくる。いや、簡単な問題なのかもしれないな。僕がわざわざ難しくしていただけかもしれない。
「僕は待ってたらいいのか?」
「そうだ! 待て! 犬のように!」
笑いながらまた歩き出す玄の後を慌てて追いかけ、また並ぶ。
結局僕の家まで送ってくれた形になった玄は
「到着しました姫! わたくしは下がらせていただきます」
と言って帰っていった。
「犬じゃなかったのかよ」
そう呟いて僕も家に入る。
かなり居心地の悪い家だけれど仕方がない。なるべく両親に関わらないように部屋に戻った。
正直、両親の様子が気にならないわけではない。あんなにうなだれている父を残して今まで外出していたし、母も心配だろうと思う。
でも。
今は考えたくないんだ。
もう少し待ってほしい。
ああ、もしかしたら、茜もこうなのかな。
こうであったら、いいな。
鳴らない電話を抱きしめて、僕は背中を丸めて目を閉じた。
いつのまにか眠りについていた僕は、アラームの音で目が覚めた。
リビングには誰もいない。
両親が朝食を食べたのかどうかわからなかったので、一応朝食の準備をする。
いつもより早く家を出た僕は、歩道橋に向かって歩く。歩道橋を歩く人、歩道橋の下を歩く人、自転車に乗った人。皆、半袖だ。
前に来たのはいつだったかな。
前に来た時は……あぁ。
周りを見渡した。歩道を見下ろした。居るはずのない影を捜して。
電話を取り出した。履歴を確かめた。そして、諦めて歩きだす。
待つよ、茜。
僕は待つよ。
僕は今も泣いているだろうか?それとも笑っているんだろうか?
「鏡がないからわからないな」
誰に言うわけでもなく呟く。
「お腹、空いたな」
また呟いて、開いているお店を探す。
パンでも買って歩きながら食べようかとお店に入ると、今日見たばかりの顔が近付いてきて、いきなり両手で僕の顔を覆った。
「だーれだ?」
「それは後ろからやるもんだよ」
けれど玄は僕の声を聞いても僕の顔を覆ったまま、入り口近くまで僕を押していった。
そして僕の身体を右に向かせて
「お前面白い顔してるから、とりあえずこれ持ってまっすぐ行けよ」
と、ポケットティッシュを持たせて僕を洗面所に送り出した。
ああ、そういうことか。
涙と鼻水と汗とでぐちゃぐちゃになった僕の顔は確かに面白かった。
水に濡らしたティッシュで顔を拭くと、まぶたが膨らんで一重になった僕が現れた。
「さっきとあんまり変わらないな」
洗面所の前で待っていた玄が笑った。
パンとコーヒーを買って、玄と共にお店を出る。コーヒーを飲みながら並んで歩く。だんだんと街灯が少なくなって、住宅街に入った。
「彼女にさ、嫌われたかもしれないんだ」
言葉に出した後、自分自身に現実を突きつけられて胸が苦しくなる。
「嫌われたかもしれないってことは、嫌われてないかもしれないってことだよな?」
「そうだけど……でもきっと」
玄は立ち止まって僕を見つめた。
「なぁ、茜ちゃんになんて言われたんだ?」
「少し時間が欲しいって。また連絡するって」
そう答えると玄は真っ白な歯を見せてニッと笑い
「じゃあ、時間を与えてやれよ。連絡を待ってやれよ」
そう言って僕の肩をバンバンと叩いた。
玄にかかると全ての悩みが簡単な問題に思えてくる。いや、簡単な問題なのかもしれないな。僕がわざわざ難しくしていただけかもしれない。
「僕は待ってたらいいのか?」
「そうだ! 待て! 犬のように!」
笑いながらまた歩き出す玄の後を慌てて追いかけ、また並ぶ。
結局僕の家まで送ってくれた形になった玄は
「到着しました姫! わたくしは下がらせていただきます」
と言って帰っていった。
「犬じゃなかったのかよ」
そう呟いて僕も家に入る。
かなり居心地の悪い家だけれど仕方がない。なるべく両親に関わらないように部屋に戻った。
正直、両親の様子が気にならないわけではない。あんなにうなだれている父を残して今まで外出していたし、母も心配だろうと思う。
でも。
今は考えたくないんだ。
もう少し待ってほしい。
ああ、もしかしたら、茜もこうなのかな。
こうであったら、いいな。
鳴らない電話を抱きしめて、僕は背中を丸めて目を閉じた。
いつのまにか眠りについていた僕は、アラームの音で目が覚めた。
リビングには誰もいない。
両親が朝食を食べたのかどうかわからなかったので、一応朝食の準備をする。
いつもより早く家を出た僕は、歩道橋に向かって歩く。歩道橋を歩く人、歩道橋の下を歩く人、自転車に乗った人。皆、半袖だ。
前に来たのはいつだったかな。
前に来た時は……あぁ。
周りを見渡した。歩道を見下ろした。居るはずのない影を捜して。
電話を取り出した。履歴を確かめた。そして、諦めて歩きだす。
待つよ、茜。
僕は待つよ。
