もう切れてしまった電話をポケットから取り出すと、着信履歴から折り返す。ワンコール鳴るか鳴らないかですぐにつながった。
「どこにいるの? どうしたの? 何かあったの? 無事なの?」
心配しているような、怒っているような、焦っているような声が矢継ぎ早に耳元に響く。
「大丈夫だよ」
僕は、僕は会いたいと。
本当は言いたかったけど。
会ってしまったら全てを話さなければいけないような、話したくなってしまうような気がして。
「大丈夫だよ、茜」
そう言うのが精一杯だった。でも
「今から行くから! どこにいるの?」
こんな時の茜は圧倒的な行動力がある。
「今は家の前に居るけど。茜、学校は?」
茜は黙ってしまった。
「茜? 茜?」
電話がつながっているか確かめながら茜の名前を呼ぶ。ふいに爽やかな香りと共に影が二つになり、そして重なった。
「学校なんて行けるわけないじゃない!」
ずっと感じたかった温もりが突然僕の身体を包んだ。
「心配かけてごめん」
後ろから腰に回された腕を上から抱きしめる。
「お詫びに何してくれる?」
「なんでもするよ」
「じゃぁ、今からデートだね!」
どうやらいつもの如く僕に拒否権はないようなので、僕は着替えるために家に戻った。
出かけることを両親に告げると母が何か言いたげだったけど、僕はそれに気付かないフリをして部屋のドアを閉め、外で待たせている茜のために手早く着替える。
ポケットから電話を出すと、玄からメッセージが入っていた。
「家に帰ってるから、何かあったら連絡しろよ!」
気を利かせてくれたのだろうか?
「ありがとう」
とだけ返信した。
ジーンズにTシャツ、薄手のパーカー。ポケットに財布と電話、そして例の記事を突っ込んで考える。
これからきっと僕は茜にこれまでのことを話すんだろう。
茜はどう思うだろうか。
それでも僕を包んでくれるだろうか。
それとも……
「どこへ行こうか?」
「もちろん! 学校をサボっていく場所はひとつ!」
僕の左手を奪うと茜はまっすぐに歩いていく。
僕は茜の右手をしっかりと握り返して少し強引に引っ張る。
「あっ」
片方を引っ張られてくるっと振り返った形になった茜を抱きしめる。
強く、強く。
「どうしたの?」
戸惑いながら茜が訊く
「なんでもないよ。行こうか」
と、身体を離して歩き出した。
「もう!」
と、頬を膨らませて横を歩く茜に笑顔を返して、僕は
(だって、これが最後になるかもしれないからさ……)
と、心の中で呟いて茜の右手を握りなおした。
僕らはあの水辺に来ていた。
「いつ来ても静かだね」
茜が誰に言うでもなく呟く。
それきり茜は何も言わない。僕の言葉を待っているみたいに。
僕は、覚悟を決めた
「どこにいるの? どうしたの? 何かあったの? 無事なの?」
心配しているような、怒っているような、焦っているような声が矢継ぎ早に耳元に響く。
「大丈夫だよ」
僕は、僕は会いたいと。
本当は言いたかったけど。
会ってしまったら全てを話さなければいけないような、話したくなってしまうような気がして。
「大丈夫だよ、茜」
そう言うのが精一杯だった。でも
「今から行くから! どこにいるの?」
こんな時の茜は圧倒的な行動力がある。
「今は家の前に居るけど。茜、学校は?」
茜は黙ってしまった。
「茜? 茜?」
電話がつながっているか確かめながら茜の名前を呼ぶ。ふいに爽やかな香りと共に影が二つになり、そして重なった。
「学校なんて行けるわけないじゃない!」
ずっと感じたかった温もりが突然僕の身体を包んだ。
「心配かけてごめん」
後ろから腰に回された腕を上から抱きしめる。
「お詫びに何してくれる?」
「なんでもするよ」
「じゃぁ、今からデートだね!」
どうやらいつもの如く僕に拒否権はないようなので、僕は着替えるために家に戻った。
出かけることを両親に告げると母が何か言いたげだったけど、僕はそれに気付かないフリをして部屋のドアを閉め、外で待たせている茜のために手早く着替える。
ポケットから電話を出すと、玄からメッセージが入っていた。
「家に帰ってるから、何かあったら連絡しろよ!」
気を利かせてくれたのだろうか?
「ありがとう」
とだけ返信した。
ジーンズにTシャツ、薄手のパーカー。ポケットに財布と電話、そして例の記事を突っ込んで考える。
これからきっと僕は茜にこれまでのことを話すんだろう。
茜はどう思うだろうか。
それでも僕を包んでくれるだろうか。
それとも……
「どこへ行こうか?」
「もちろん! 学校をサボっていく場所はひとつ!」
僕の左手を奪うと茜はまっすぐに歩いていく。
僕は茜の右手をしっかりと握り返して少し強引に引っ張る。
「あっ」
片方を引っ張られてくるっと振り返った形になった茜を抱きしめる。
強く、強く。
「どうしたの?」
戸惑いながら茜が訊く
「なんでもないよ。行こうか」
と、身体を離して歩き出した。
「もう!」
と、頬を膨らませて横を歩く茜に笑顔を返して、僕は
(だって、これが最後になるかもしれないからさ……)
と、心の中で呟いて茜の右手を握りなおした。
僕らはあの水辺に来ていた。
「いつ来ても静かだね」
茜が誰に言うでもなく呟く。
それきり茜は何も言わない。僕の言葉を待っているみたいに。
僕は、覚悟を決めた
