もうすぐ九年か。
あるとき、レストランである人と言い合いになってね、俺はつい手を出してしまった。
警察沙汰になったんだが、酒の席の喧嘩ということで大した罪にはならなかった。
しかし九年前のあの日、居酒屋で偶然その時の相手と会ってしまったんだ。
相手も俺の顔を覚えていて、ずっと睨みつけていた。
俺のことも、母さんやお前のことも。
俺は、もしかしたら向こうは俺の家族に手を出してくるかもしれないと身構えた。
そして、こちらに向かってくる相手に掴みかかり、そのまま外に連れ出した。
お前たちを守りたかった……
掴みかかった俺に逆上した相手と、外に出てすぐに殴り合いになった。
なんとしてもお前たちを守らなければと必死だった。
殴り飛ばされて誰かにぶつかった俺は、ぶつかった相手の車のトランクにあった金属バットをとっさに掴み、無我夢中で振り回した。
相手が倒れるまで。 動かなくなるまで。
正直、どれだけ相手を殴ったのかわからない。
記憶があまり定かではないんだ。
ただ、相手の方は亡くなった。
俺が殺したんだ。
それが、お前が六歳の時のことだよ。
俺は五年服役した。
出所して働こうにも、素性がバレるとすぐに仕事を失ってしまう日々。
人を殺したという噂はすぐに広まってしまう。
どこに居ても、どこに行ってもだ。
噂が広まると俺たちはすぐに引っ越した。
空、お前にも迷惑をかけたな。
そんな日々に疲れてしまってね。
俺は、生きることをやめようと思ったんだ。
高いビルに登り……
しかし、死ぬことはできなかった。
途中どこかで身体をぶつけ、スピードが落ちたから命拾いしたのだろうと医者は言っていたのだが、俺はね、空……
死ねなかった上に、今後自分で死ぬこともできない身体になってしまったんだよ
そして俺は今でもこうしてお前たちに迷惑をかけながら生きている。素性が知られる度に引っ越しをして、一人では何もすることができず、一生誰かの世話にならなければいけない日々を、俺はただ生き続けている。
守りたかった人に迷惑をかけて生き続けている。
すまない、空
本当にすまない……
申し訳ない……

何度も何度も僕に向かって謝り、ソファから下に落ちてしまいそうな程頭を下げる父。何も言えないまま時が過ぎ、また僕のポケットが震える。さっきから何度もかかっている電話を僕は取れないでいた。さっき、いや、昨日からずっと。
玄が後ろから話しかけてきた。
「少し外の風にでも当たるか」
促されて僕は家の外に出た。