学校

 よく青年向けで社会派の漫画やアニメ、ドラマとかだと『小学生の頃は楽しかったのに』なんて台詞を聞くことがある。

 だけど、私にその言葉は全く分からないし、大人になっても分からないだろう。

 なぜなら、小学校も今いる高校も、同じにしか見えないからだ。きっと大学だって同じだ。

 全部同じ、嫌な場所だ。

 大学は専門とかじゃない限り、決まった教室なんてものは無いのは聞いたことがある。だけど、暗黙のカーストなんてものはあると思う。

 教室だけじゃなくて、部活、グループ、友だちなんていうのも結局はカーストの関係がある。

 それは、性別が男女どちらも関係なく、上下関係や面倒臭いものがあると分かっている。

 友だちの一人を、実は可愛くないと陰で言う女子。
 
 友だちの一人を、遊びやいじりと言いながら堂々と暴力振るったり、その人の道具を壊したりしている男子。

 そういうのが、今の高校にもあるのだろう。私が見ようとしていないだけで、何かのタイミングで見てしまうことはあるだろう。

「功、おはよー」

「みんなおはよー」

 私はこの高校では運が良かった。なんと言えば良いのか、花の女子高生らしく、キャピキャピすることが出来る位置にいる。

 今思うと、なんとなく女子で良かったと思う。

 昔は、小学生の頃は道徳だったか何かの時間で、生まれ変わったら男女どちらが良いか、なんて質問があったら、間違いなく男と答えていた。それはクラスメイトの女子も同じで、みんな口々に男が良かったと言っていた。

 だけど、今は違う。女子で良かったと思ってる。
 
 それは意外にも、今の高校のクラスメイトも私と同じ意見の子が多かった。

 高校でも、今更のように生まれ変わるから男女どっちが良いか、なんて質問をした授業があった。

 その時に、クラスメイトの多くの女子が、生まれ変わっても女性が良い、と言っていた。

 まあ、結構ファッションとか服とかが何着ても同じとか、つまらないとか言う意見の子が多かったけど、中にはこういう子もいた。

「でもさ、そもそも男子って何かそういうオシャレ? とかそういうのに疎くなきゃいけないみたいなの、あるらしいよ?」

 え? マジ?

 私だけでなく他のクラスメイトもそう反応した。

 私もそれは全く知らなかった。

「マジマジ、それにさぁ」

 するとその子は、少し声を潜めて、前のめりになった。そうされたので私たちも、身を乗り出して耳を傾ける。

「そもそも男子って恋愛とかの話しないじゃん? あれって、しちゃダメなマナーらしいんだよね」

「え? 何それ初耳なんだけど」

 もちろん私も初耳だ。

「そう、何でしないかって言うとさ、もし、ガチで好きな子がかぶりでもしたら、そこで人間関係がギクシャクするし、モテるっていう印象があると嫌われるから初めからしないらしいよ?」

「え、男子にもそんなことあるんだ!?」

 私も意外だった。なんとなく、それなりに嫉妬とかがあるのは知っていたが、そこまでだとは知らなかった。

 だけど、例えば中学の時に、体育祭のリレーとかで褒められた男子を、やたらと敵視している男子がいたことを思い出した。

 だからそういうのもあるのだろう。

 クラスメイトは更に話した。

「そうそう、なんかめっちゃあるらしい。だってさ、考えてみ? 例えば私たち女子もさぁ、変な男に絡まれたとかおじさんに可愛いと言われてキモかったとかさぁ、一週間に三回くらい聞いたらなんかウザくねってなるじゃん」

 まあたしかにそれはそう。なんかモテてる自慢しているみたいで嫌だ。まあ、注意する時が多々ある。

「それに男子が告白されたとかってさぁ、正直、言っちゃ悪いけど男子に比べたら女子ってビジュ強い子多くない?」

 たしかに

 その場にいた全員が同じ言葉を発した。

 たしかに今の教室にいる男子も、ほとんどビジュアルは良くない。そして他のクラスでも、良さげな雰囲気を出していても、雰囲気だけっていうのも多い。

「ね、そしたらますますなんだこいつ、みたいな感じになるじゃん。だから、恋愛話とかはそんなにやらないの。嫉妬とかで人間関係のギクシャク原因になるから」

 なるほど、めちゃくちゃ納得できた。

「へぇ〜、そう考えると、男子ってのも大変だね。異性に認められても同性に認められないのって、たしかに抵抗感めっちゃあるよね」



 その日はそんな話をして終わった。



 私は、クラスメイトとは少し違う面から、男子は大変だと思っていた。

 男子は、私から見たらイジリなのかいじめなのか全く分からない。

 いじめかと思っていたけど、やられてる本人は楽しそうに笑っている。その周りもなんか笑って暴力振るっていたり、トイレの中にバケツの水をぶちまけたりしている。

 どう考えてもイジメだと思うのに、やっている方はもちろんやられている方も笑っている。

 だからその時の私は、男子って変だな、怖いな、と思っていたけど、ある日、突然そのやられていた男子が休んだ。その後もずっと来なかった。
 
 そしたらある日、不登校で学校に行きたくないということになっていたのを、先生から伝えられた。

 そこで初めて私もいじめという言葉をハッキリ思い浮かべた。

 でも男子たちはいじめをしているつもりは全くないと、休み時間に言っていた。

 ノリでやっていて、美味しくしてやったのに、アイツが嬉しがっていると思ったから、自分たちを悪者にされた。

 だんだんその男子たちの、怒りが高まっていた。

 それを見て男子の人間関係が複雑どころか、本当に訳が分からないものだと知った。
 
 女子もそうだけど、一人だけ美味しいとか、いい子ちゃんでいるとか、そういうのは嫌われる。

 だけど、いじって美味しくしてやった、なんて発想は、少なくとも今まで私が出会った女子には無かった。

 意外と男子の方が、みんなの和というものを意識しすぎて、面倒臭いのかもしれない。そう思った。

 兎にも角にも、私はこの高校で、まだ特にトラブルは無く、上手くやれている。
 
 この学校での、女子との話は主に恋バナや気になる人や話題の俳優とかのガールズトーク。そういう話をする資格を持つことが出来た。

 最も、ここでの問題なのが私はそういう分野にそこまで興味が無いところだ。

 ドラマとか映画とかは見る。だけど、正直俳優とかにそこまで入れ込むことはない。

 というより、これ言ったら絶対、その日からカースト最下位になるけど、演技が下手だとすごく萎えてしまう。友だちとかが、泣いて感動していても、演技が下手すぎて、そんな感情湧かない。

 だから中学の頃は困った。だって友だちはメチャクチャ泣いてて、男性俳優の名前メッチャ言ってるのに、その隣で能面みたいに私は無表情だったのだから。

 当然のように私が全く感動していないことは、その友だちにバレた。そこで一悶着トラブルとか色々あって、少しハブラレ気味になった。

 男子は知らない。

 女子が、男子ってほんとバカね〜、なんて小馬鹿にしているように見えて、その小馬鹿にしている対象や目線を浴びせている男子のことが好きだということを。

 だけど男子は知ってる。

 女子が本当にキモいとか触りたくない話したくない、と思っている男子には、キモいとか揶揄うなんてしない。

 だから女子からそういうことをされた男子は、そこで、自分はカーストが最底辺だと気づくし、周りの男子もそう認識する。

 ひたすら無視する。

 そしてそのキモい男子が少し動いただけで、害虫がカサカサ動いたが如く、飛び上がって怯える。

 逆に、カースト高いグループの女子から、指をさすように笑い、キモいと言われた男子は、結構アリと判断していることを。いわゆるキープというやつだ。

 それで男子が反応して、その子とかと話す。

 するといつの間にか、そういうカーストグループが出来上がっているパターンがある。

 男子を積極的に揶揄える女子は、間違いなくカーストが高い位置にいる。なぜならその女子は、男子を揶揄うことを許されているからだ。

 男子だってやはり女子の見た目に煩い。

 それなりに可愛いと思われなければ、揶揄われても、調子乗んな、アイツキモくね? 勘違いしてる、とか陰で言われていることだってある。

 だから男子を揶揄うことが許されている。

 それが、カーストが高い女子のたった一つの難しい条件だ。

 それが、個人かグループかの違いは、少しだけある。

 だけど、個人だとしても、その人と一緒にいればカーストが高いと自然とされる。その人と一緒にいて、あははと笑っているだけで、カースト高い女子が増える。

 でも、それでも色々と面倒くさいことが起こる。

 例えば、私みたいに根本的に趣味が合わなくて、無理していたりするパターン。

 あとは、何から目線なの? とか言われるかもしれないが、中学生だって異性の目が欲しくなる。

 だから、ちょっとのすれ違いが起きたりする。

 例えば、ある一番カーストが高くて、男子を揶揄う女の子がいたとする。その子は同じカーストの運動部のカッコいい見た目の男子のことが好きだ。

 だけど、その運動部の男子が、揶揄う子ではなく、その隣にいる子のことが好きだとしたらどうだろうか。

 男子も女子も単純だ。

 好きな人とは積極的に話したい。

 だから、女子で、揶揄う対象となる男子がほぼ一人しかいなかったら、その男子のことが好きなのは、ほぼ確定したようなまのだ。

 そして、それは暗黙のルール。

 だから、その男子が揶揄ってない女子のことが好きなことを知ったら、その男子が好きなその子は、どうなるのだろうか。

 もちろん嫉妬する。

 更に、私のように。全く面白く無いと思うと、笑顔を見せない子だったら。自分が大好きな男性俳優が出ている映画を見ている横で、能面のように無表情をしている女子だとしたら、どうするだろうか。

 もう言わなくても分かる。

 だから、高校では私自身の演技を上げた。

 興味ない映画でも泣けるように、共感しているアピール出来るように頑張った。

 というか最低かもしれないが、考え方を変えた。

 例えば、せっかくの自分の金を見たくもない、つまらない映画に使うなんて。

 そう思っただけで泣ける。それで、後は適当にそのカースト高い女子に合わせるだけで、なんとかなった。



 
 さて、ここで疑問が生じる。

 どうして、こんなそこまでしてカーストを高くしたいのだろうか。

 その答えは、明確だ。

 カーストが低いと、学校内での多くの、行動力を行使することが出来なくなるからだ。

 男子は分かるかもしれない。

 私が中学の時、カースト高い男女交えてカースト低い男子は、ひたすら陰口の的になっていた。

 最悪の場合、休み時間に観察するなんてこともする。そのキモいとされた男子が、少し動いただけで悲鳴を上げたり、キモキモ連発。髪を少し上げただけでカッコつけてるイキッてる。たまたま太陽の日差しのせいで埃が舞ったら、フケだらけの汚い髪、なんてことを言われる。

 よく分かりやすいのがそういう生徒だったけど、それは女子にも当てはまる。

 例えば、女子がハマっているアイドル、単純な趣味、好きな俳優なんてものがあったら、たとえカースト高い女子の中で、好きだった人がいても、それを拒否される。


 あの子アレ好きなの? ヤバくない?

 う〜っわ、最悪、推しがアレと同じとかマジで最悪!!

 
 そういうことを言われる。

 私はただでさえ、こういうカーストが高い女子と趣味が合わない。だけど、趣味が合わないからって、否定されるのはやっぱり嫌だ。

 他人に馬鹿にされてもいい、気にするな。
 前を向け。自分の好きを誇れ。
 外野の言葉は無視しろ、自分を信じて前だけ進め。
 お前はお前だ。かけがえのない存在だ。

 そういうフレーズの曲とか、漫画とか小説とか、映画とか見て、全く響かないのは、多分、私の中で反発心があったからだ。

 自分の趣味を馬鹿にされてもいい?
 そんな言葉は聞く必要ない誇れ?
 自分を信じて前だけ進め?
 
 その言葉は確かに良い言葉だ。

 だけど、その言葉をやたらと多用する人って、多分、自分の趣味に対して、ドストレートにキモいとか、頭がおかしい異常者とか、そういう否定を誰かに受けたことが無い人だ。

 誰かにキモいと、そういう目で見られたことが無いから、そういうことが言えるんだ。

 自分の趣味を否定されるのは辛い。

 たったキモいとか、ナイ、とかその一言だけで、私の全てが捻じ切られるような痛みを感じてしまうんだ。

 もうそういうことをされたくない。

 だから、私は決定的に合わせることに専念している。否定されるのは辛いから。


 だから、今は上手くやっているつもりだ。




 だけど、まさか、これから自分があんなことになるなんて。あんな風なことを言われるなんて思わなかった。

 気をつけていたはずなのに、全くノーマークしていた所から、硬球が飛んできたみたいに、予想外なことが起きてしまった。