人は誰しも未練だとか後悔だとかを抱えながら生きているんだと思う。最後の最後で負けた部活の引退試合とか、自分の努力不足で叶えられなかった第一志望合格とか、一度は終わった人間関係とか。だからその後悔を打ち消すチャンスが来たら、必死になってしがみ付いてしまうんだろう。



 小夜さんと夜を共にするようになったのは高校一年生の夏。夜を共にすると言っても、卑俗な意味合いのそれじゃない。触れ合いも交わりもなく、ただ並んで眠るだけ。

 その年の夏は異常だった。テレビが口を揃えて記録的猛暑と騒ぎ立て、外に出ればアスファルトが人間の体温よりも熱かった。
 たぶん小夜さんも、そんな夏の真夜中の茹だるような暑さにあてられてしまったのだと思う。
 小夜さんはある夜、何の前触れもなく連絡してきて、俺の家にやってきた。「この部屋、懐かしいね」なんて言いながら俺の部屋のベッドに入り込んできた。
 それから毎晩、冷房の効いた部屋で一緒に眠るようになった。小夜さんの体温は思っていたよりも低くて、安心する匂いがした。

 俺と会ってるのあいつにバレたら嫌じゃない? と聞けば、俺の家の冷蔵庫を勝手に開けてアイスを食べていた小夜さんは淡々とした声で、「若気の至りで片付けられることは粗方やっておいた方がいいからね」と答えた。

 頭の奥で警報のような音が鳴り響いている気がした。でも俺は耳を塞いで、あの日失った小夜さんとの関係を無理やり結びつけようとした。

 本当はあの夜、全てを終わらせてしまうべきだったのに。
 手のひらに残るあの湿った温度を、俺はどうしても手放せなかった。