村はずれの小さな家に、タカシという少年が祖母と二人で暮らしていました。タカシの両親は彼が幼い頃に旅に出たきり、戻ってきていませんでした。

タカシは他の子どもたちとは少し違っていました。彼は星空を見るのが大好きで、夜になると家の裏にある小高い丘に上り、星を眺めながら何時間も過ごすのでした。

「タカシ、また星を見ているのかい?」
と祖母はいつも優しく微笑みながら言いました。

「うん、おばあちゃん。星たちが僕に話しかけてくるんだ。」
とタカシは答えました。

村の子どもたちはタカシのことを「変わり者」と呼び、時には意地悪をすることもありました。でもタカシは気にしませんでした。彼には星たちがいたからです。

ある夏の夜、いつものように丘の上で星を見ていると、一際明るい流れ星が空を横切りました。その瞬間、タカシの耳に小さな声が聞こえました。

「助けて...」

タカシは驚いて周りを見回しましたが、誰もいません。

「こちらよ、タカシ...」

声は空から聞こえてくるようでした。タカシは星空を見上げると、北の空に普段見たことのない青白い星が輝いていました。

「私はホシノ。遠い星の世界から来たの。私たちの星が危機に陥っているの。助けてくれるのはあなただけよ。」

タカシは信じられない気持ちでしたが、何か特別なことが起きていると感じました。

「どうすればいいの?」
とタカシは尋ねました。

「明日の夜、再び丘に来て。そして心を開いて。あなたの中にある光を見つけなさい。」

翌日、タカシは一日中その声のことを考えていました。学校でも上の空で、先生に何度も注意されました。

夜になり、タカシは急いで丘に向かいました。空には昨日と同じ青白い星が輝いています。

「来てくれたのね、タカシ。」
ホシノの声が再び聞こえました。
「あなたの村に、間もなく大きな災いが起ころうとしています。村の後ろにある古い山が崩れる兆しがあるの。」

タカシは驚きました。
「でも、どうすればいいの?誰も僕の言うことなんて信じないよ。」

「あなたの中には特別な力があるの。星の言葉を理解する力。心を開いて、その力を使って村人たちに伝えなさい。」

タカシは深く息を吸い込み、目を閉じました。すると不思議なことに、山の方から微かな震動を感じました。それは言葉ではないけれど、何かが崩れそうになっている感覚でした。

次の日、タカシは勇気を出して村の長老に会いに行きました。

「長老さん、山が危険です。崩れそうになっています。村の人たちを避難させてください。」

長老は眉をひそめました。
「タカシ、何を言っているんだ?天気も良いのに山が崩れるなんて。」

「でも、本当なんです!星が教えてくれたんです。」

「星が?」
長老は笑いました。
「君はいつも変わった子だったが、そんな話を信じろというのか?」

落胆したタカシは家に帰りました。祖母だけは彼の話に耳を傾けてくれましたが、どうすることもできません。

その夜、タカシは再び丘に上りました。

「ホシノ、誰も信じてくれないよ。」

「あなたは自分の力を信じなければならないの。もっと強く、みんなに伝えなさい。」

タカシは深く考えました。そして、ある考えが浮かびました。

翌朝、タカシは村の子どもたちを集めました。普段は彼をからかう子どもたちでしたが、タカシの真剣な表情に惹かれて集まってきました。

「みんな、聞いて。僕は星の声を聞くことができるんだ。そして星が、山が崩れると教えてくれた。大人たちは信じてくれないけど、もし本当なら、みんなが危険なんだ。」

子どもたちは最初は笑っていましたが、タカシの真剣な目を見て、少しずつ彼の言葉に耳を傾け始めました。

「じゃあ、どうすればいいの?」
一人の女の子が尋ねました。

「自分の家族に伝えて。そして、明日の朝までに村を離れるよう説得して。」

子どもたちはそれぞれの家に戻り、タカシの話を伝えました。多くの大人たちは笑い飛ばしましたが、子どもたちの真剣な様子に、少しずつ不安を感じ始める人もいました。

その夜、タカシは再び丘に上りました。青白い星はより明るく輝いていました。

「あなたはよくやった、タカシ。あとは自然の声に耳を傾けなさい。」

タカシは目を閉じ、耳を澄ませました。すると、山の方から微かな音が聞こえました。それは石がこすれる音、土が動く音でした。

タカシは走って村に戻り、鐘を鳴らし始めました。
「逃げて!山が崩れる!今すぐ逃げて!」

最初は混乱した村人たちでしたが、その時、遠くから轟音が聞こえました。地面が揺れ始め、人々は恐怖に包まれました。

「タカシの言った通りだ!山が崩れる!」

人々は急いで村から避難を始めました。タカシは祖母の手を引き、高台へと向かいました。

そして、タカシの警告から数時間後、大きな土砂崩れが村を襲いました。しかし、タカシのおかげで村人全員が無事に避難することができたのです。

「タカシ、君のおかげで村は救われた。」
長老は頭を下げました。
「私たちは君の言葉を信じるべきだった。」

その夜、避難所となった高台から星空を見上げたタカシは、青白い星が優しく瞬いているのを見ました。

「ありがとう、ホシノ。」

「いいえ、タカシ。あなたが自分の力を信じたから、みんなを救うことができたのよ。いつも心の声に耳を傾けなさい。あなたは特別な存在だから。」

それから何年も経ち、タカシは立派な大人になりました。彼は村で「星の声を聞く人」として尊敬され、多くの人が彼の知恵を求めるようになりました。

 そして今でも、晴れた夜には丘の上に立ち、星々の囁きに耳を傾けています。彼は知っているのです。私たちの周りには、耳を澄ませば聞こえる、たくさんの大切な声があることを。

時には、誰にも理解されなくても、自分の信じる道を進むことの大切さを、タカシは星と共に人々に伝え続けているのです。