あの夏の僕ら

「いかないのか?」
 千歳は僕を無視し、杏は申し訳なさそうに頭を下げて千歳の後を追う。部屋に残るのは僕だけだった。ため息をつきかけて、飲み込む。
 何度目の無視なんだろう。僕は彼女に嫌われているらしい。だけど、嫌われることをした覚えが全くない。というか話したことも一腐度もない。
 なんでだろう。本当に意味がわからない。首をかしげつつ、重たい足で余った部屋を見にいく。
「なんで余ったんだろう」
 余った意味がわからないほどに綺麗で広い部屋だった。小窓は二つしかなく光があまり入らない部屋。だから余ってしまったのだろうか。
 結局、そのまま各自の部屋で休むことになった。

 朝、ふと目が覚めてリビングへと顔を出すとそこには誰もいなかった。時計の針は4時を指していて、思っていた以上に早く目が覚めていた。
 リビングには本棚があるが、文庫だったり雑誌だったり色んな種類の本が詰められていた。テレビもあるけど、ニュースとか見れずゲームを繋いだりすることはできるという、あまり使い道がない。そんなリビングにいても暇だ。ふと、窓の外に視線がいく。外はまだ少し暗かった。前髪が額の上で揺れる。周りをキョロキョロとみる。どこからか、風が入ってきているらしい。
「ここからか」
 窓が少し開いていて、そこから風が入り込んでいた。
「ん?」
 窓からは海へと続く道が見える。道の周りには草木や花が植えられていた。そんな道を歩いていた。だからこそ、儚く見えたのだろうか。そこには、今にも消えてしまいそうな千歳がいた。
 窓を閉め、千歳が向かったであろう海に走る。