先輩と連絡先を交換した次の日。
 さっそく、昼休み前にメッセージが飛んできた。


『ごめん、風邪ひいた』


 という言葉と共に、あの独特な猫が平謝りしているスタンプ。

 今日は先輩とのお昼ご飯は無理そう。
 そう思うと残念な気持ちが湧いてきたが、落胆の色を見せると先輩に気を遣わせてしまいそうで、『わかりました』とだけ打ち込んだ。


「……待って」


 送信する直前、ふと思いとどまる。

 風邪を引いたって、もしかして、昨日寒い中待たせてしまったせいだろうか。
 そんな心配がよぎったのだ。

 しかも昨日、両親が多忙だという話を聞いたばかり。


「……先輩、今家に一人…なのかな……」


 一度心配の種が生まれると、見て見ぬふりはできなさそうだった。
 ためらいつつも、文章をうち直す。


「……私が待たせたせいで風邪ひいたかもしれないんだし…、心配して当然だよね……」


 自分に言い聞かせるようにつぶやいて、私は恐る恐る送信ボタンを押した。


『必要なものがあれば買っていきましょうか?』


 既読はつかない。
 体調を崩しているのだし、寝てしまったのかもしれない。

 私はため息をつき、メッセージを二、三回読み返したあと、スマホを閉じた。



 そうして先輩から返信に気づいたのは、放課後になってのことだった。
 何気なくスマホを開いて、先輩からの通知を見た瞬間、私の心臓がどきっと跳ねた。

 早鐘を打つ鼓動を落ち着けて、メッセージを開く。


『ごめん、かぜぐすりだけ、おねがい』


 端的なメッセージと、マップのスクショが送られていた。

 マップを確認すると、高校から徒歩10分ほどの距離。
 走ればすぐだ。

 私は乱雑に教科書を詰め込むと、足早に学校をあとにした。