【嶋田先輩side】
 苦しいくらいにお腹を満たして、俺は焼き肉屋をあとにした。
 気まずさを紛らわすためもあって少し食べすぎたなと反省する。


「……嶋田先輩?」


 出てすぐ、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 振り返るとオーバーサイズのパーカーにジーンズというラフな格好の上谷さんが立っていた。
 思わぬ出会いに、俺は少し面食らう。


「上谷さん、こんな時間にどうしたの?」


 もう19時をまわろうかという頃。
 見たところ、友達や家族がいっしょというわけでもなさそうだし。

 上谷さんは少し言いにくそうに口を開く。


「は、恥ずかしいんですけど……アイスが食べた過ぎて……」


 少し顔を赤くしながら、彼女は数軒先のコンビニを指さした。


「家近いの?」

「はい、もうすぐそこです」


 他愛ない話をしていたら、会計を済ませた両親が遅れて店を出てきた。


「孝くん、帰り……あら?その子は?」

「あ、学校の後輩。たまたま会って」


 上谷さんは驚いたように父と母を見つめる。


「……先輩のご両親…ですか?」

「そう。久々に三人そろったから、ご飯にでもって」


 上谷さんは俺の言葉にうなずいたけど、まだ少し驚いているようだった。

 上谷さんにはなんだかんだ俺の両親の多忙さを知られているから、こうしてそろって出かけていることに驚いているのだろう。


「……すみません、ご家族との時間邪魔しちゃったみたいで」

「ううん」


 むしろちょうどよかった。
 ずっと三人きりで、息が詰まりそうだった。

 気をつかって少し離れたところでおしゃべりしている両親に、ちらっと視線を投げる。

 父も母も嫌いじゃないし、尊敬している。
 でもそれとこれとは話が別だ。


「……先輩のご両親、すごく仲がいいんですね」


 上谷さんが小さな声でそうつぶやいた。
 その瞳は、楽しそうに笑い合う俺の両親に注がれていた。

 俺は何も言わずうなずいた。


「……あ、ごめんなさい、先輩もご両親と話したいのに私に付き合わせて……」

「……ん」


 平静を装ったけれど、口の端がこわばった。
 上谷さんはそんな俺の様子を、じっと見つめた。

 そして口を開く。


「……そうだ先輩、風邪のとき看病しに行ったお礼、ちゃんともらってないんですけど」

「……へ?」


 上谷さんがいたずらっ子みたいな笑みを見せた。


「アイス、おごってくださいよ」

「!」


 俺も彼女につられて、頬が緩んだ。
 もちろん、と気づけば答えていた。