嶋田先輩と別れて教室に戻る途中、呼び止められた。


「上谷、進路調査だけど……」


 聞きたくなかった単語。
 再提出を言われてから、約二週間。

 いまだに白紙は埋まっていない。


「……来週中には出せそうか?」

「……はい」


 先生の言い方から察するに、私の表情を見て期限を延ばしてくれたんだろう。

 早く出さなきゃと思うのに……。
 何を書けばいいか、わからない。

 いっそ適当に書いて出してしまおうか。
 そんなくだらない考えを抱きながら、私は教室に戻った。


「咲良―、どこ行ってたの?」


 昼練から帰ってきたらしき澪が、私のもとに寄ってくる。
 ちょっとね、と言葉を濁す。


「……澪はさ、進路調査なんて書いた?」

「私?私はとりあえず音楽続けたいと思ってるんだけど、やっぱプロで食べていくって大変だし、とりあえず音楽教師志望で考えてるよ。だからまあ、音楽専攻のある教育学部か、私でも行けるレベルの音楽大学か……って感じだね」

「そっか」


 同じ学年だけど、澪はしっかり進路を考えている。
 やりたいことも、学びたいこともない私とは、大違い。

 もしかしたら、こんなに何も考えてないのなんて、この教室で私だけなのかもしれない。

 そんな嫌な考えがよぎっただけで、机の中に眠る進路調査を真っ黒に塗りつぶしたいような気分になった。