臍を噛み、愛を食む

 今日の弁当は、冷凍食品の春巻き、昨日と同じサラダ、ゆで卵、ふりかけご飯。栄養を考えて家にあったパックの野菜ジュースも添えておいた。


「うん、おいしい」

「……ほんとですか?」


 にこにこ笑ってお弁当を食べ進める先輩に、私は疑いの眼差しを向ける。

 いや、冷凍食品だの、ゆでただけの卵だの、ふりかけをかけただけのご飯だの……。
 まずくなる要素もないんだけど。

 とはいえ今まで食べてきたお弁当と比べると、天地ほどの差があるだろう。


「一生懸命つくってくれたことが伝わってきて、おいしい」

「……それ、ほめてるんですか」

「もちろん」


 なおも疑わしそうな私を見て、先輩がこらえきれないって感じで小さく吹き出す。


「料理、苦手なのにがんばってくれたんだなぁって思うと、今まで以上においしいよ」

「……っ」


 こういうときまで、さらっとカッコいいことを言う。
 嶋田先輩はズルい人だ。


「ほんとだよ?」

「……」

「あ、あといっしょに食べるのが上谷さんだから、おいしい」

「……っ!」


 私は大慌てで口に梅おにぎりを突っ込んだ。
 危うく動揺するところだった。

 頬の熱さを気のせいだと言い聞かせて、私は咀嚼を続ける。


「……先輩、生徒会選挙、どうですか?」


 気をそらすため、私は話題を変えた。


「うん、まあ準備は十分したし、あとは当日がんばるだけかな」


 生徒会選挙も、もう週明けに迫っていた。
 でも先輩は落ち着いていて、どんな準備をしただとか、練習のため先生に聞いてもらっただとか、そんなことを穏やかに話してくれた。


「……あとは本番速くならないように気を付けるぐらいかな。緊張するだろうし」

「もし緊張したら、私に話しかけてる感じで話せばいいんですよ」


 冗談めかして答えたけど、先輩は嬉しそうに目を見開いた。


「それいいね。ならステージから上谷さんを探すよ」

「え、本気ですか?」

「もちろん」


 嶋田先輩は、冗談とも本気ともつかない感じで微笑む。
 まあ、そのくらいで先輩の緊張がおさまるって言うならお安い御用だ。

 生徒会選挙が終われば、まもなく澪の昼練期間も終わる。

 そうなったら……この嶋田先輩との関係はどうしよう。

 澪との時間だって大切だ。
 でも……お昼の時間だけは、私の下手なお弁当を笑って食べてくれる嶋田先輩と過ごしたいと思ってしまうのは、どうしてなんだろう。