ユウキと出会った時は、霊が見えることで知り合えた同じ感性の友達ができたことが嬉しかった。今まで自分と同じように悩んだり、苦しんだりする人間は姉以外にいなかったし、相談する相手も姉だけだった。
物心ついた頃には、人間じゃないものが見えていた自分にはそれらの区別が難しくて、分別がつくようになる頃には、周りからは奇異な人間だと思われ続けていた。それが終わると今度は、面白がって目に見えないものの事を聞いてくるようになって、そっちの方が逆に鬱陶しく思うようになった。周りに必要とされて、勝手に「あいつ幽霊見えるらしいよ」と噂が広まってトラブルに巻き込まれるようになる。そうすると、友達だと思っていたやつらが離れていった。本当に勝手だと思う。そんな孤独も理解されないから、尚更孤立していく始末。
「色気ねぇな」
ユウキは不満に口を尖らせていた。
一方、俺は頭を抱える。
「お前が好きなことを勝手にバラされて、今更口説くこともできねぇし…そんなんどうすりゃあいいんだよ」
人権侵害だ!クソばばあ!
と心中が荒れる。
「口説くつもりだったの?」
「それについてはノーコメント」
「なんでだよ」
これ以上好きな相手にみっともないところは見られたくない。
「じゃあ、僕が口説けば問題ない?」
「は?」
俺はユウキを見た。
ユウキは、微笑を浮かべていたが口元がやや歪んでいた。
「お…前そんな気ねーだろ?」
まさかそんなことないよな?という懐疑的な思いと、沸き起こった期待に揺れる。
言葉通り信じてはいけない。ユウキの表情をちゃんと観察して、その先に絶望がないかどうかを確認しないと…
「でも、ノンちゃんの顔に口説かれてみたいって書いてあるからさ」
さりげなく親しげに呼ぶその言い方は、挑発されているみたいだった。
手に取るようなわかりやすい挑発なんて、乗るわけない。
「ねぇよ。そんなん」
「嘘だぁ」
なんの脈絡もなくユウキはそんなことを言った。
そこに違和感を抱く。
ま、
まさか…っ!
と思って、俺は後ろを勢いよく振り向く。
「…」
自分以外の何かが、ユウキに余計なことを吹き込んでいるんじゃないかと思ったのだ。上下左右せわしなく視線を動かす。これ以上ジタバタしているところを見られるのは避けたい。
それはさっきユウキが言っていた『守護霊さん』という存在たちであり、余計なことをべらべらと本人以外に言ったりする。ありがたくも、自分が自覚するよりもずっと前から寄り添って見守ってくれている。俺以上に俺のことをよく知っている存在だ。ユウキはそれが見えたり話をしたりすることができるから、もしかしたら俺が知らないところでユウキに何か合図とかを送っていたのかもしれないと恐怖したが…
「…別にノンちゃんの守護霊さんに聞いたわけじゃないよ」
顔を元に戻すと、ユウキは自分のカバンに勉強道具をすべて納めて身支度を整えていた。どうやら違ったらしい。
「っていうか、お前だけ…なんか卑怯だな」
「何が?」
「俺だけアウェイみたいな…お前だけ余裕あるみたいな…全部知ってます的な?」
「そんなことないよ」
気づかれたくない部分に触れられたせいか心が弱っていくようだったので、俺は盛大に舌打ちをして自分を奮い立たせる。
このままでは、何もかもがババアの思う壺な気がした。
「クソっ!こうなったらユウキ!口説かせろ!」
「何それ…そんな言い方する?」
ユウキは苦笑していた。
「しょうがねぇだろ。ババアが勝手にネタバレしたんだから!」
「まぁ、そうかもしれないけど。でも、言うつもりなかったんでしょ?僕も聞かなかったことにす…」
他人には決して見られたくないところを見てしまうことも多い。
本当に霊が見えることでいいことなんて一つもない。
「ふざけんなっ お前、俺のことそんな中途半端な漢だと思ってんのか?」
「いや、そうじゃなくて…」
祖母が他人にかけた迷惑について孫なりに気を遣っているのか。
「そんな気遣いいらねぇ。俺がお前を好きな気持ちが中途半端だと思ってんのか?」
普通の人には見えないものが見えていると、碌なことがないと思う。知らなくて良いことを知ってしまうことは日常茶飯事だ。人間の裏側を暴いてしまうが故に、後味が悪いことも多く、それに対して自分ができることが限られるが故にどうしようもないことの方が多い。だから、霊なんて見えない方がいい。
「きっちりケジメつけてやるから覚悟しとけよ」
「!」
ユウキが照れ隠しで下を俯いたことに、この時の俺は気づかなかった。なぜかといえば、この時実は盛大な告白をしていたからだ。
思い返せばいくらでも恥ずかしさが込み上げてくる。青臭い青春だと一言では片付けられない汚点だった。
「…よろしくお願いします」
ユウキは俺と目線を合わせずに鞄を持って立ち上がる。
俺は見えないように先ほど握りつぶしたノートの切れ端を学ランのポケットの上着に突っ込んだ。ユウキの字が書いてあったやつだ。
今度は『愛羅武勇』と伝えよう。
物心ついた頃には、人間じゃないものが見えていた自分にはそれらの区別が難しくて、分別がつくようになる頃には、周りからは奇異な人間だと思われ続けていた。それが終わると今度は、面白がって目に見えないものの事を聞いてくるようになって、そっちの方が逆に鬱陶しく思うようになった。周りに必要とされて、勝手に「あいつ幽霊見えるらしいよ」と噂が広まってトラブルに巻き込まれるようになる。そうすると、友達だと思っていたやつらが離れていった。本当に勝手だと思う。そんな孤独も理解されないから、尚更孤立していく始末。
「色気ねぇな」
ユウキは不満に口を尖らせていた。
一方、俺は頭を抱える。
「お前が好きなことを勝手にバラされて、今更口説くこともできねぇし…そんなんどうすりゃあいいんだよ」
人権侵害だ!クソばばあ!
と心中が荒れる。
「口説くつもりだったの?」
「それについてはノーコメント」
「なんでだよ」
これ以上好きな相手にみっともないところは見られたくない。
「じゃあ、僕が口説けば問題ない?」
「は?」
俺はユウキを見た。
ユウキは、微笑を浮かべていたが口元がやや歪んでいた。
「お…前そんな気ねーだろ?」
まさかそんなことないよな?という懐疑的な思いと、沸き起こった期待に揺れる。
言葉通り信じてはいけない。ユウキの表情をちゃんと観察して、その先に絶望がないかどうかを確認しないと…
「でも、ノンちゃんの顔に口説かれてみたいって書いてあるからさ」
さりげなく親しげに呼ぶその言い方は、挑発されているみたいだった。
手に取るようなわかりやすい挑発なんて、乗るわけない。
「ねぇよ。そんなん」
「嘘だぁ」
なんの脈絡もなくユウキはそんなことを言った。
そこに違和感を抱く。
ま、
まさか…っ!
と思って、俺は後ろを勢いよく振り向く。
「…」
自分以外の何かが、ユウキに余計なことを吹き込んでいるんじゃないかと思ったのだ。上下左右せわしなく視線を動かす。これ以上ジタバタしているところを見られるのは避けたい。
それはさっきユウキが言っていた『守護霊さん』という存在たちであり、余計なことをべらべらと本人以外に言ったりする。ありがたくも、自分が自覚するよりもずっと前から寄り添って見守ってくれている。俺以上に俺のことをよく知っている存在だ。ユウキはそれが見えたり話をしたりすることができるから、もしかしたら俺が知らないところでユウキに何か合図とかを送っていたのかもしれないと恐怖したが…
「…別にノンちゃんの守護霊さんに聞いたわけじゃないよ」
顔を元に戻すと、ユウキは自分のカバンに勉強道具をすべて納めて身支度を整えていた。どうやら違ったらしい。
「っていうか、お前だけ…なんか卑怯だな」
「何が?」
「俺だけアウェイみたいな…お前だけ余裕あるみたいな…全部知ってます的な?」
「そんなことないよ」
気づかれたくない部分に触れられたせいか心が弱っていくようだったので、俺は盛大に舌打ちをして自分を奮い立たせる。
このままでは、何もかもがババアの思う壺な気がした。
「クソっ!こうなったらユウキ!口説かせろ!」
「何それ…そんな言い方する?」
ユウキは苦笑していた。
「しょうがねぇだろ。ババアが勝手にネタバレしたんだから!」
「まぁ、そうかもしれないけど。でも、言うつもりなかったんでしょ?僕も聞かなかったことにす…」
他人には決して見られたくないところを見てしまうことも多い。
本当に霊が見えることでいいことなんて一つもない。
「ふざけんなっ お前、俺のことそんな中途半端な漢だと思ってんのか?」
「いや、そうじゃなくて…」
祖母が他人にかけた迷惑について孫なりに気を遣っているのか。
「そんな気遣いいらねぇ。俺がお前を好きな気持ちが中途半端だと思ってんのか?」
普通の人には見えないものが見えていると、碌なことがないと思う。知らなくて良いことを知ってしまうことは日常茶飯事だ。人間の裏側を暴いてしまうが故に、後味が悪いことも多く、それに対して自分ができることが限られるが故にどうしようもないことの方が多い。だから、霊なんて見えない方がいい。
「きっちりケジメつけてやるから覚悟しとけよ」
「!」
ユウキが照れ隠しで下を俯いたことに、この時の俺は気づかなかった。なぜかといえば、この時実は盛大な告白をしていたからだ。
思い返せばいくらでも恥ずかしさが込み上げてくる。青臭い青春だと一言では片付けられない汚点だった。
「…よろしくお願いします」
ユウキは俺と目線を合わせずに鞄を持って立ち上がる。
俺は見えないように先ほど握りつぶしたノートの切れ端を学ランのポケットの上着に突っ込んだ。ユウキの字が書いてあったやつだ。
今度は『愛羅武勇』と伝えよう。
