ユウキは、なんだか安心したように微笑んでいた。それを見て強張っていた身体が緩むような気がした。
姉ちゃんに赤点をとってしまったことを知られてしまい、ユウキのばあちゃんには魂を落としたことをばらされてしまう。他にも、様々なことを暴露され続けて情けない姿を知られているがユウキは嫌にならないのだろうか…?少し不安に思った。
「ユウキ?」
「ん?」
見た目はヤンキーを気取って強そうに見せているが、中身が伴っていない。
姉ちゃんやばあちゃんは、俺の味方というよりも、ユウキ側に情報を漏らしていて、もし俺なら、こんな情けない部分の多いヤツを見て失望してしまうかもしれない。
「その…」
「ノンちゃん」
俺の心情を察したのか、ユウキが俺の言葉を塞ぐ。
甘く呼ばれるものだから、どきりとしてしまう。
「そんなに自分を悪く思わないで」
自分を悪く思ったり、自信がないというわけではない。
かといって、過剰に自信があるわけでもないが。
「そのままのノゾミが可愛いんだから」
かっ…
「可愛い?!」
俺の声は上擦っていた。
「うん、ノゾミは可愛いよ」
それは…
女の子にいう言葉じゃないか?
と、俺は困惑して顔面が赤くなる。
「ほらね」
ほらねって言われても…
自分じゃよくわからないが、否定もできないくらい期待が膨らむ。
「…やっぱ、ノンちゃんって僕に口説かれたいんじゃないの?」
「なっ…」
挑発的に言われて、耳まで真っ赤になるくらい恥ずかしくなる。
「やっぱそうなんだ」
否定できない俺の無言を肯定と取ったのだ。
動揺を隠しきれない俺は、安易に否定もできない。
「い、いや。俺は…っ!」
かろうじて、なんとか言葉を発するがその先の言葉を用意できない。
「違うの?」
ユウキはニヤつきながら首を傾げる。そんな表情反則だ。
「その…っ」
姉に「どうして好きなのにそばにいてやらないのか?」言われたことが頭に浮かぶ。
想いを素直に伝えきれなかったことが原因でユウキとの仲が拗れてしまった。だったら、今ユウキへ気持ちを伝えるのが正しいことは頭ではわかっている。けれど、本当に今なのか?今すぐに伝えなければいけないことなのだろうか?
ゲンキとの関係は幻滅してもいいから早く縁が断ち切れればそれでいいと思うのに、ユウキとは絶対に嫌だと思う。だから、言葉に慎重になる。俺はユウキみたいに頭が良い方じゃない。
「無理しなくていいのに」
「無理じゃねぇよっ」
ユウキに見透かされて同情される。
でも、それが精一杯の虚勢だった。
「そうじゃなくてさ」
ユウキとの年は変わらないはずなのに、俺よりもずっと恋愛に慣れているかのようなだった。
「誰かに何か言われるんじゃなくてさ。僕たちのペースで進んでいこうよ」
えっ… ん?
それって… どういう…
「ノゾミの姉ちゃんとか、僕のばあちゃんとか…何か言われてどうにかなるのって、ちょっとうんざりじゃん」
確かに
全部が見透かされて、全部思い通りに動かされる。
姉ちゃんにも、ユウキのばあちゃんにも嘘もつけなければ隠し事もできない。
霊媒師としての能力がずば抜けすぎているから。それは、良いことだけれはない。
そうか。
それは、ユウキも同じか。
俺の心は締め付けられるように切なくなる。
鼻の奥はツンと痛くなった。
疑問を抱くすることすら許されない。常に真実を突きつけられ、逃げ場すら与えられないことへの圧迫感。
そこに意志や私情の権利を与えられない。付き合いが長くなれば長くなるほど全てが正しいことが証明されていって、抵抗する気力を削がれていく。言う通りにして、悪いことが起こっても学びだといわれ、良いことが起こったら畏怖になる。何が起こっても自分が悪いと糾弾される。自分が意思をもつことを奪われて言いなりになる事でしか、思考すらさせてもらえない。それは悪言い方をすると洗脳や支配と同じだ。
見えないものの世界の言葉を通訳できる霊媒師という存在は、当然コンビニの数よりも少ない。
どちらかといえば、貴重な存在で会おうと思わなければ出会えない存在に等しい。だから、この地域では粗悪な霊媒師が後を絶たない。その霊媒師に捕まってみぐるみを剥がされたり、人生が破綻してしまったという人も多い。
もしも、ゲームのように霊媒師のレベルが目に見えてわかるようなシステムがあったとしたら、騙されて人生を棒に振るような可哀想な人は少なかったかもしれない。残念ながら、普通の人に目に見えない世界を覗けてしまう能力が悪用されて不幸を生み出し、悪い噂をされてしまうために、ばあちゃんや姉ちゃんがとばっちりにあうこともある。
「だから、ちょっと反抗してみようかなってさ」
「…」
誰よりも間近でその能力を見ているから、悪徳霊媒師じゃないのはわかっている。
もちろん助けられたことも多いし感謝もしている。でも、それと同じだけ不利益を被ることも多い。
姉ちゃんやユウキのばあちゃんは、俺らがどうにか関係性が深くなることを望んでいるみたいだから先延ばしにする。それは、時に未来さえも見通せてしまう女帝へ反旗を翻すことにならないだろうか。
「ユウキ」
俺は、ユウキのことが男らしく見えた。
少し目が潤んだが、笑って誤魔化した。
「お前、やっぱ頭いいな」
俺は、確かにそれも面白そうだなと思う。
結果的に、姉ちゃんやばあちゃんに見えている未来と同じような事になったとしても、今度は2人で選んだ未来になるはずだ。
俺は好意を知られてしまってから焦っていた。ババアに導かれて、強制的に引き合わされた変な縁だけれど、俺は大事にしたいと思っている。
だから、学校の違うヤンキーと優等生が義務で緒にいると思ってほしくなかったし、ましてやババアに言われたからとかいう同情を抱いてほしくなかった。そう思う反面、ユウキには俺の思いを重荷に感じてほしくないとも思っていた。
これはババアが俺の好意をバラしたから、余計にややこしくなっているのだ。誰にも心の中に、エゴと優しさというのは存在していて、それは当事者の繊細な匙加減で保たれるはずだった。少しでもバランスを崩せば、思いが膨れ上がって、執着へ変わり、やがて生き霊を飛ばすことになる。
ババアがバラさなければ、口説くなんて変な流れになることもなかったし、俺の好みがユウキだという事実を知られずに済んだ。俺は繊細なバランスを保ちながら、ユウキの側にいたいと願っていたのだ。そこを、あのクソババアが余計なことを吹聴して話をややこしくさせるから、妙な流れになってしまって、結果訳のわかんない方向へと突き進むことになったんじゃないか…っ!ほんとにあのクソババア!!
けれど、ユウキの提案を聞いて、関係性に名前をつけることを焦ることはない。もし、ばあちゃんや姉ちゃんは俺の焦燥すら思う壺で、嘲笑っているのだとしたら、尚の事もっとゆっくりお互いのペースで気持ちを通わせて深めていけば良いのだ。それは、俺がユウキと一緒にいたいと願う気持ちが同じだと思ってくれているという事だと思った。そう思うと、今まで散々引っ掻き回されていた感情が穏やかになる。
「ふふっ」
ユウキは微笑んでいた。
「帰ろ」
「うん」
ユウキに促されてついていく。
公園から道路へ出ると、右と左へ歩いていく俺たちの影が交差した。
俺たちは、これからも何度も立ち止まって、そして再び歩き続けるだろう。環境が変化したり、インクルージョンが入り込んだりして、今の関係性は少しずつ変化をするだろう。けれど、俺たちの成長する速度は俺たちの間に存在するもので、誰にも邪魔はさせない。たとえそれを、ファントムと呼んでも。否、ファントムに呼ばれてもーーーーー
ー結ー
姉ちゃんに赤点をとってしまったことを知られてしまい、ユウキのばあちゃんには魂を落としたことをばらされてしまう。他にも、様々なことを暴露され続けて情けない姿を知られているがユウキは嫌にならないのだろうか…?少し不安に思った。
「ユウキ?」
「ん?」
見た目はヤンキーを気取って強そうに見せているが、中身が伴っていない。
姉ちゃんやばあちゃんは、俺の味方というよりも、ユウキ側に情報を漏らしていて、もし俺なら、こんな情けない部分の多いヤツを見て失望してしまうかもしれない。
「その…」
「ノンちゃん」
俺の心情を察したのか、ユウキが俺の言葉を塞ぐ。
甘く呼ばれるものだから、どきりとしてしまう。
「そんなに自分を悪く思わないで」
自分を悪く思ったり、自信がないというわけではない。
かといって、過剰に自信があるわけでもないが。
「そのままのノゾミが可愛いんだから」
かっ…
「可愛い?!」
俺の声は上擦っていた。
「うん、ノゾミは可愛いよ」
それは…
女の子にいう言葉じゃないか?
と、俺は困惑して顔面が赤くなる。
「ほらね」
ほらねって言われても…
自分じゃよくわからないが、否定もできないくらい期待が膨らむ。
「…やっぱ、ノンちゃんって僕に口説かれたいんじゃないの?」
「なっ…」
挑発的に言われて、耳まで真っ赤になるくらい恥ずかしくなる。
「やっぱそうなんだ」
否定できない俺の無言を肯定と取ったのだ。
動揺を隠しきれない俺は、安易に否定もできない。
「い、いや。俺は…っ!」
かろうじて、なんとか言葉を発するがその先の言葉を用意できない。
「違うの?」
ユウキはニヤつきながら首を傾げる。そんな表情反則だ。
「その…っ」
姉に「どうして好きなのにそばにいてやらないのか?」言われたことが頭に浮かぶ。
想いを素直に伝えきれなかったことが原因でユウキとの仲が拗れてしまった。だったら、今ユウキへ気持ちを伝えるのが正しいことは頭ではわかっている。けれど、本当に今なのか?今すぐに伝えなければいけないことなのだろうか?
ゲンキとの関係は幻滅してもいいから早く縁が断ち切れればそれでいいと思うのに、ユウキとは絶対に嫌だと思う。だから、言葉に慎重になる。俺はユウキみたいに頭が良い方じゃない。
「無理しなくていいのに」
「無理じゃねぇよっ」
ユウキに見透かされて同情される。
でも、それが精一杯の虚勢だった。
「そうじゃなくてさ」
ユウキとの年は変わらないはずなのに、俺よりもずっと恋愛に慣れているかのようなだった。
「誰かに何か言われるんじゃなくてさ。僕たちのペースで進んでいこうよ」
えっ… ん?
それって… どういう…
「ノゾミの姉ちゃんとか、僕のばあちゃんとか…何か言われてどうにかなるのって、ちょっとうんざりじゃん」
確かに
全部が見透かされて、全部思い通りに動かされる。
姉ちゃんにも、ユウキのばあちゃんにも嘘もつけなければ隠し事もできない。
霊媒師としての能力がずば抜けすぎているから。それは、良いことだけれはない。
そうか。
それは、ユウキも同じか。
俺の心は締め付けられるように切なくなる。
鼻の奥はツンと痛くなった。
疑問を抱くすることすら許されない。常に真実を突きつけられ、逃げ場すら与えられないことへの圧迫感。
そこに意志や私情の権利を与えられない。付き合いが長くなれば長くなるほど全てが正しいことが証明されていって、抵抗する気力を削がれていく。言う通りにして、悪いことが起こっても学びだといわれ、良いことが起こったら畏怖になる。何が起こっても自分が悪いと糾弾される。自分が意思をもつことを奪われて言いなりになる事でしか、思考すらさせてもらえない。それは悪言い方をすると洗脳や支配と同じだ。
見えないものの世界の言葉を通訳できる霊媒師という存在は、当然コンビニの数よりも少ない。
どちらかといえば、貴重な存在で会おうと思わなければ出会えない存在に等しい。だから、この地域では粗悪な霊媒師が後を絶たない。その霊媒師に捕まってみぐるみを剥がされたり、人生が破綻してしまったという人も多い。
もしも、ゲームのように霊媒師のレベルが目に見えてわかるようなシステムがあったとしたら、騙されて人生を棒に振るような可哀想な人は少なかったかもしれない。残念ながら、普通の人に目に見えない世界を覗けてしまう能力が悪用されて不幸を生み出し、悪い噂をされてしまうために、ばあちゃんや姉ちゃんがとばっちりにあうこともある。
「だから、ちょっと反抗してみようかなってさ」
「…」
誰よりも間近でその能力を見ているから、悪徳霊媒師じゃないのはわかっている。
もちろん助けられたことも多いし感謝もしている。でも、それと同じだけ不利益を被ることも多い。
姉ちゃんやユウキのばあちゃんは、俺らがどうにか関係性が深くなることを望んでいるみたいだから先延ばしにする。それは、時に未来さえも見通せてしまう女帝へ反旗を翻すことにならないだろうか。
「ユウキ」
俺は、ユウキのことが男らしく見えた。
少し目が潤んだが、笑って誤魔化した。
「お前、やっぱ頭いいな」
俺は、確かにそれも面白そうだなと思う。
結果的に、姉ちゃんやばあちゃんに見えている未来と同じような事になったとしても、今度は2人で選んだ未来になるはずだ。
俺は好意を知られてしまってから焦っていた。ババアに導かれて、強制的に引き合わされた変な縁だけれど、俺は大事にしたいと思っている。
だから、学校の違うヤンキーと優等生が義務で緒にいると思ってほしくなかったし、ましてやババアに言われたからとかいう同情を抱いてほしくなかった。そう思う反面、ユウキには俺の思いを重荷に感じてほしくないとも思っていた。
これはババアが俺の好意をバラしたから、余計にややこしくなっているのだ。誰にも心の中に、エゴと優しさというのは存在していて、それは当事者の繊細な匙加減で保たれるはずだった。少しでもバランスを崩せば、思いが膨れ上がって、執着へ変わり、やがて生き霊を飛ばすことになる。
ババアがバラさなければ、口説くなんて変な流れになることもなかったし、俺の好みがユウキだという事実を知られずに済んだ。俺は繊細なバランスを保ちながら、ユウキの側にいたいと願っていたのだ。そこを、あのクソババアが余計なことを吹聴して話をややこしくさせるから、妙な流れになってしまって、結果訳のわかんない方向へと突き進むことになったんじゃないか…っ!ほんとにあのクソババア!!
けれど、ユウキの提案を聞いて、関係性に名前をつけることを焦ることはない。もし、ばあちゃんや姉ちゃんは俺の焦燥すら思う壺で、嘲笑っているのだとしたら、尚の事もっとゆっくりお互いのペースで気持ちを通わせて深めていけば良いのだ。それは、俺がユウキと一緒にいたいと願う気持ちが同じだと思ってくれているという事だと思った。そう思うと、今まで散々引っ掻き回されていた感情が穏やかになる。
「ふふっ」
ユウキは微笑んでいた。
「帰ろ」
「うん」
ユウキに促されてついていく。
公園から道路へ出ると、右と左へ歩いていく俺たちの影が交差した。
俺たちは、これからも何度も立ち止まって、そして再び歩き続けるだろう。環境が変化したり、インクルージョンが入り込んだりして、今の関係性は少しずつ変化をするだろう。けれど、俺たちの成長する速度は俺たちの間に存在するもので、誰にも邪魔はさせない。たとえそれを、ファントムと呼んでも。否、ファントムに呼ばれてもーーーーー
ー結ー
