「…また、一緒に帰ってくれる？」

　僕が尋ねると、ノゾミは一瞬驚いたものの瞳を伏せた。
　
「うん」

　少しノゾミの声は震えていた。

「あと、勉強教えてほしい」
「いいよ。赤点取ったんでしょ？」
「え」

　ノゾミの表情がまた変わった。
　なんで知ってんの？っていう表情から、また僕の上の方に視線を写して何かを探していた。ばあちゃんを疑ったのだろう。

「ああ、これはノゾミの姉ちゃんが言ってた」
「えっ…」

　ノゾミの姉ちゃんと僕のばあちゃんが、なんとなくそんな会話をしていた。
　
「…」

　ノゾミは、怪訝な表情をしていた。

「…お前だけずりーな」
「何が？」

　僕は意味がわからなかった。

「っていうか、なんで俺の姉ちゃん知ってんの？」

　なんで知っているっていうか…
　僕はなんて答えればいいのかわからなかった。
　けれど、正直に言えばノゾミは絶対にわかってくれると思っていた。

「今日ばあちゃんが急に出てきてさ。ばあちゃんとよくいっしょにお参りに行ってた神社に行けって言われたんだよ。それで行ったらノゾミのこと知ってるギャルがいて姉ちゃんだと思った。ばあちゃんと話してたし…」

　ノゾミの姉ちゃんの姿を思い浮かべる。
　キヨシが言っていた「ノゾミの姉ちゃんはヤクザ」と言っていたことが、なんとなくわかる気がした。でも、きっと見た目が厳ついだけで全く関係がない。あれだけ刺青だらけの派手な霊媒師もなかなか見れるもんじゃないから、珍しいものを見たと思えば得した気分にもなる。すると、ノゾミは舌打ちをした。

「ちっ、ババアかよ」
　
　まあ、確かに…
　ばあちゃんに動かされたといえばそうだし、姉ちゃんとばあちゃんが通じているということの分の悪さをノゾミは感じていたのだ。

「そういえば、ノゾミって二股かけられてるってほんと？」
「…」

　ノゾミは不快そうに表情を歪めた。
　その表情だけでああ、違うんだ。と僕は思った。

「それ、なんなの？」
「知らない。僕も聞いただけだから」

　ノゾミは眉間に皺を寄せていう。

「どっから湧いた噂だよ うぜぇな」

　まあ、当の本人から言わせるとそうだろうなと思う。

「ふふっ」

　僕は微笑んだ。

「何？」
　
　ノゾミは、笑った僕を見た。

「安心した」
「？」

　僕がそういうと、ノゾミは眉間に寄せていた皺を緩める。

「もし噂通りなら、ばあちゃんが放っておかないだろうなってさ」

　ばあちゃんはノゾミの噂を全然気にしていなかったから、それはデマだと知っていたんだと思う。

「今思えば、違うってすぐわかるんだけどね」

　僕の心はスッキリと晴れた。
　今まで僕の心はモヤついていたのだという自覚をした。

「…」

　ノゾミは、何かを言いたそうだったが何とも言えない複雑な表情をしていた。