「でも、守りきれなかったし…」
その約束、まだ有効だったんだ…
「ユウキのばあちゃんに啖呵切ったのに、このザマだし」
ノゾミは目に見えて両肩を落としていた。
バツの悪そうに、視線を逸らしていて下唇を噛んでいる。
いっそ殴り合いの喧嘩をした方が、心の痛みは紛れたのかもしれない。けれど、それは解決したわけじゃない。万が一、ノゾミが目の前でゲンキと殴り合ったとしたら僕は傷ついていくのを目の当たりにしなければならないし、そんな一部始終を見届ける方も苦しいから見たくない。
「ううん…僕の方こそごめん」
僕は、ノゾミの優しさに甘えていたことを恥じた。
こんなに優しい人を僕は自分の勘違いで傷つけてしまっていた。ばあちゃんがあんなにノゾミのことを気にかけていたのもわかる。そして、その優しさに漬け込まれてしまうのも…
「なんで?」
ノゾミは僕が謝ることに疑問だったみたいで、視線を僕に向ける。
「だって、魂落とすくらい傷つけたって言われたから…」
「誰が?」
「ばあちゃん」
「…」
ノゾミは、また余計なことを言いやがってという表情をしていた。
無言で何も言わなかったが、今はそんな恨みを差し置いて、先に僕と話したいことがあるから噤んだのだろう。こうして、ばあちゃんへの不満は募らせていくわけだ。
「でも、先に傷つけたのは、俺だろ?」
「ううん。先とか後とか関係ないよ。僕もノゾミのこと傷つけた」
どちらが先とか後とか、やった、やられた、やり返した。そんなどうしようもない水掛け論は無意味だ。
「俺は、別に傷ついてないっ」
「魂落としといて?」
「それは…それはぁー…」
ノゾミは、何も言えなかった。
ばあちゃんが、ノゾミの性癖を最初にバラしてきた時にゲイという存在を自覚した。世間的な言葉としては知っていたが、どこか遠い存在で僕には関係なく、アニメやテレビではエンターテイメントとして見ていた。ただ、自分の身近にいるというのはかなり衝撃的だったし、それを自覚した人が自分に好意を寄せていると知って尚更驚いた。
実際、隣を歩いたり、一緒に公園で過ごしているうちに男が男を好きだろうが、僕に好意を持っていようが、それは決して悪いことではないし恥ずべきことでもない。ノゾミはあくまでもノゾミだ。それは変わらないと思う。僕は、ノゾミが本格的に口説くと言い出す前までは、そう思っていた。
「ってか、俺は泣かしたし」
「泣いてない」
「嘘つけ」
ノゾミは自分の痴態を僕の泣きっ面に話をすり替えた。
「泣いてた」
「泣いてない」
僕は湿っぽくなった目元を『泣いた』という事実として認めたくなかった。じんわり目頭が熱くなった。それだけだと言い張る。
「魂落としたノゾミに比べたら大したことない」
僕が、そういうとノゾミは至極言いにくそうに会話に妙な間を開ける。
「…あのさ」
「ん?」
ノゾミの頬がほんのり染まる。
そして、僕にしか聞こえない小さな声でいう。
「…2人の時はノンちゃんって呼んでほしい」
「え?」
僕は少し驚いてノゾミを見た。すると、ノゾミは上目遣いで僕を見つめて、何かを待っている様子だった。
最初に聞いたら呼ぶなって言ってたくせに。本当は呼ばれて嬉しかったんじゃん。あれはいわゆる、照れ隠しということだったんだろう。ノゾミは言葉と心が違うことを言う時がある。それを僕だけが見抜けるようになれたら良いなと思った。
「ノンちゃん」
「…」
ノゾミの頬がみるみるうちに染まっていって、少し目元が潤んでいた。
「うん」
まつ毛を伏せて、こくりと頷いた。
何それ、そんな表情すんの反則じゃない…?
こっちまで、なんだか頬が赤くなる。
その約束、まだ有効だったんだ…
「ユウキのばあちゃんに啖呵切ったのに、このザマだし」
ノゾミは目に見えて両肩を落としていた。
バツの悪そうに、視線を逸らしていて下唇を噛んでいる。
いっそ殴り合いの喧嘩をした方が、心の痛みは紛れたのかもしれない。けれど、それは解決したわけじゃない。万が一、ノゾミが目の前でゲンキと殴り合ったとしたら僕は傷ついていくのを目の当たりにしなければならないし、そんな一部始終を見届ける方も苦しいから見たくない。
「ううん…僕の方こそごめん」
僕は、ノゾミの優しさに甘えていたことを恥じた。
こんなに優しい人を僕は自分の勘違いで傷つけてしまっていた。ばあちゃんがあんなにノゾミのことを気にかけていたのもわかる。そして、その優しさに漬け込まれてしまうのも…
「なんで?」
ノゾミは僕が謝ることに疑問だったみたいで、視線を僕に向ける。
「だって、魂落とすくらい傷つけたって言われたから…」
「誰が?」
「ばあちゃん」
「…」
ノゾミは、また余計なことを言いやがってという表情をしていた。
無言で何も言わなかったが、今はそんな恨みを差し置いて、先に僕と話したいことがあるから噤んだのだろう。こうして、ばあちゃんへの不満は募らせていくわけだ。
「でも、先に傷つけたのは、俺だろ?」
「ううん。先とか後とか関係ないよ。僕もノゾミのこと傷つけた」
どちらが先とか後とか、やった、やられた、やり返した。そんなどうしようもない水掛け論は無意味だ。
「俺は、別に傷ついてないっ」
「魂落としといて?」
「それは…それはぁー…」
ノゾミは、何も言えなかった。
ばあちゃんが、ノゾミの性癖を最初にバラしてきた時にゲイという存在を自覚した。世間的な言葉としては知っていたが、どこか遠い存在で僕には関係なく、アニメやテレビではエンターテイメントとして見ていた。ただ、自分の身近にいるというのはかなり衝撃的だったし、それを自覚した人が自分に好意を寄せていると知って尚更驚いた。
実際、隣を歩いたり、一緒に公園で過ごしているうちに男が男を好きだろうが、僕に好意を持っていようが、それは決して悪いことではないし恥ずべきことでもない。ノゾミはあくまでもノゾミだ。それは変わらないと思う。僕は、ノゾミが本格的に口説くと言い出す前までは、そう思っていた。
「ってか、俺は泣かしたし」
「泣いてない」
「嘘つけ」
ノゾミは自分の痴態を僕の泣きっ面に話をすり替えた。
「泣いてた」
「泣いてない」
僕は湿っぽくなった目元を『泣いた』という事実として認めたくなかった。じんわり目頭が熱くなった。それだけだと言い張る。
「魂落としたノゾミに比べたら大したことない」
僕が、そういうとノゾミは至極言いにくそうに会話に妙な間を開ける。
「…あのさ」
「ん?」
ノゾミの頬がほんのり染まる。
そして、僕にしか聞こえない小さな声でいう。
「…2人の時はノンちゃんって呼んでほしい」
「え?」
僕は少し驚いてノゾミを見た。すると、ノゾミは上目遣いで僕を見つめて、何かを待っている様子だった。
最初に聞いたら呼ぶなって言ってたくせに。本当は呼ばれて嬉しかったんじゃん。あれはいわゆる、照れ隠しということだったんだろう。ノゾミは言葉と心が違うことを言う時がある。それを僕だけが見抜けるようになれたら良いなと思った。
「ノンちゃん」
「…」
ノゾミの頬がみるみるうちに染まっていって、少し目元が潤んでいた。
「うん」
まつ毛を伏せて、こくりと頷いた。
何それ、そんな表情すんの反則じゃない…?
こっちまで、なんだか頬が赤くなる。
