『ユウキ』
ばあちゃんは、いつも突然現れて、時間と場所を選ばない。
家にいる時もあれば、移動中な時もあるし、学校の授業中な時もある。
『変わりないか?』
『うん、なんもないよ』
そして僕にとって重要なことを言う時もあれば、全く不必要なことを言うこともあるし無言で去っていく場合もある。
『あんた、私がよくお祈りしに行ってた神社覚えてる?』
『え、うん。覚えてるよ』
その神社はよく覚えている。ばあちゃんとよく行った場所だ。
あたりを住宅街に囲まれているが、大きな鳥居と本殿へまっすぐ続く木々が印象的な神社で参道を並走するように両脇に小川が流れている。その辺りは、元々綺麗な川が流れていたが、戦争や開発で人為的に地形が変えられてしまっていた。ただ、神社周辺だけは人の手を免れて大事に神様が信仰されている。高度成長期だか大型の台風だかで、参道の大きな木々が伐採されるような計画もあったらしいが、ばあちゃんが『神様から許可が降りないからダメ』と口添えをして阻止をしたらしい。ばあちゃんは、何かあるとその神社へよく通っていた。『何か』というと、個人的な祈りや願い事のような意味合いが強い聞こえるが、ばあちゃんの場合は神様に呼ばれたというものや、挨拶廻りと言っていた。僕も、ばあちゃんに連れられて何度も言ったことがあるし、神主さんとの面識もある馴染みの神社だ。
ばあちゃんは、大体家にいて、訪ねてきた人の対応をお祓い部屋で行っていた。だから、家からほとんど出ることはなかった。けれど、そんなばあちゃんも外出することはある。それは、土地の相談事や建物にまつわることだったりした時だ。けれど、ばあちゃんは高齢者だし、移動にも時間がかかってしまうから、なるべく人を自分の家に来させるように努めていて、出向く出向かないも大体ばあちゃんが決めていたように思う。
そんな数少ない外出で、最も多かったことが、神様の元を訪れるということだった。神様への挨拶や、呼ばれて行くことがほとんどで、僕は声をかけられたらほとんど一緒について行った。そうして、神様に挨拶をすることで、もしもの時に神様から援助をしてもらうこともあったようだ。
『そこに今から行きなさい』
『え?いま?』
いくら空気の読めないばあちゃんとはいえ、僕の状況くらいはわかっているだろう。
『授業中だよ』
『いいから行きなさい』
確かに、あと10分くらいで授業は終わるけど…
ばあちゃんが、念を押す。
『この後まだ授業残ってるし…』
『どうせ、体育嫌いでしょ?』
…ま、まぁそうだけどさ。
次の授業が何かを知っているということは、残りの授業があることを知っていて僕にそういうのだ。僕の学校は、進学校だから部活動に強制力がない。学校によっては、必ず部活に入らなければならないという校則が存在する学校もあるが、僕の学校はそうじゃない。
部活動と勉強を両立させられるスーパーな生徒はいるが、僕はそんなにたくさんのことを効率よくしようとは思わないので、部活には入っていない。だから、体育の授業以外運動という運動はしない。
しかも、僕は運動が苦手だ。走るのも遅ければ、球技も全然ダメなタイプで、高校生になってから断然、体育は好きじゃない。クラスメイトの男子は、骨格も筋肉も成長して体格が大きくなる。中学校から、成長期に入っている生徒もいたが、高校になると中学よりももっと子供臭さが抜けるような気がする。同性の生徒の運動能力は、俊敏だし力強いし、身体を使い慣れているといった感じがある。自分の体の隅々のエネルギーをうまく使えているという眩い光を発しているような気になって、まるっきりついていけない僕は劣等感で影ができる。
もちろん、馬鹿にされたりいじめられたりすることはないし、みんないい人なのでチームにも入れてくれるし、上手く試合に混ぜてくれるが、妙に神経質になっているせいで普段はオフにしているスイッチがたまにオンになる。みたくないものや聞きたくないものを聞いてしまったりもする。体育になると、多少の興奮もあるせいか、そんなことが何度かあるので僕は総じてスポーツを好きにはなれない。
『学校終わってからじゃダメ?』
『ううん今から』
今から!!?
『なんで?』
『今から、行きなさい』
何かあるけど、何も教えてくれないのは、いつものことだ。
『お祈りしに行けってこと?』
『あとね。ノンちゃん魂落としたから』
ばあちゃんは、こちらの質問に答えずに一方的に自分の話だけをする。きっと、ノゾミもそうだったんだろうなと思う。
だから、ノゾミが僕のばあちゃんを「クソババア」というのを止めない。僕も心の中で、どこかそう呼んでみたいと思う気持ちがあるからだ。でも、ばあちゃんは僕の身内だし、いうなれば先祖の枠に入る。先祖は大切にしなければならないのは、ばあちゃんの背中を見て育ったから、骨の髄まで染み込んでいる。だから、赤の他人が自分のばあちゃんに対して暴言を吐くのを止めずに見守ってしまうのは、仕方がないと思う。
『はあぁ!!?どういうこと!?その神社で落としたの?!なんで!?ばあちゃんっ!』
ばあちゃんは姿を消した。
スイッチを切っておかなかった僕は後悔した。
っていうか、僕が話を聞かないことを知っていて、言葉を変えて話しかけてきたんだと今気づいた。
つまり、ばあちゃんの策略にまんまとハマってしまっていると言うことだ。
だから、幽霊が見えることで良かったことなんて、ほぼないんだ。見えないに越したことはない。
「…」
っていうか、ノゾミが魂おとしたって、なんだよ!おい!!
ばあちゃんの気配はない。
もちろん、俺だってばあちゃんの言いつけを全部守ってきた訳じゃない。
守らなかったこともあるし、それによって「…な?言っただろ?」と言われたことは何回もある。
まだばあちゃんが生きてた頃に、学校から帰ってすぐに出かけて友達と遊びに行く時だ。ランドセルを放って家を出たかった僕をばあちゃんが呼び止めて『木には登るなよ』と言われた。僕は返事そこそこに友達数人と遊びに行った。いつも遊んでいるところで遊ぶのかと思ったが、友達の一人が面白い遊び場を見つけたと誇らしげにみんなを連れて行った。公園の草むらをかき分けた先にある大木がある場所で、そこは木の周りの草が刈られていてちょっとした広場になっていた。友達は、その木に秘密基地を作って遊ぼうと行って登り始めた。その他の友達は登れそうな大きな木に感動して皆んな木を登り始めた。僕も楽しそうな雰囲気に我慢できずに登り始めて、その日はそのまま遊んだ。
帰ってきて、玄関に仁王立ちしているばあちゃんに『玄関から入るな』と言われて、お祓い部屋の入り口に回され、ばあちゃんにお祓いをされるという、いつもの流れになる。その時に『木には精霊が宿っているんだから、傷つけるようなことはしてはいけない』というのを教わった。だから、木には登るなと言っただろうと言われたが、それならもっと詳しく教えてくれよと子供ながら思って無言になったが、そうやって捻くれた心もばあちゃんにはお見通しで『あれ以上止めても私のいうこときたか?』と言われ何も言えない。確かに、家を出る時にはかなり気持ちが速って家を飛び出したから、聞けていたかどうかの自信もないし、楽しい雰囲気に呑まれ言葉を思い出せなかったくらいばあちゃんの言葉を頭の片隅に追いやっていたから、何も言えない。
だから、ばあちゃんのいうことは、守らなければならない。
というのは、こういう小さなことの積み重ねで染み付いてしまった。だから、言われた言葉に対して敏感になってしまう。心配事の9割は起こらないというが、ばあちゃんの場合はその1割を確実に言い当てられる。一見、危険回避のように聞こえて、言われたことのない人は純粋に守ればいいじゃんと思うかもしれない。けれど、当事者になってみれば、この気持ちはよくわかると思うが、常に首根っこを掴まれているかのような感覚は決して良いことばかりではない。
「わかったよ」
授業終了の鐘がなる。
先生は、時間通り授業を終えると教室を出て行った。
授業の緊張が解けたクラスは、人が動き出すが次の授業がある。
「キヨシ」
振り返って仲の良いクラスメイトを呼んだ。
僕の席は、一番前で先生の教卓の前だ。僕は進んでその席にしてもらっている。名目は『目が悪いから』と言ってるが、本当はクラスメイトの守護霊や熱気で黒板や先生が見えないことがあるからだ。
「ん?」
幼馴染で、クラスメイトに僕は声をかける。
ばあちゃんも言っていたように、次の授業は体育だ。まだ着替えていない生徒は服を脱ぎ始めて体操着に着替え始めている。
「僕、帰るから」
「え?なんで?」
僕は、カバンを掴んで肩にかけながら友達に近づいていく。
「ばあちゃんが、ふけろっていうからさ」
「マジかよ…え、大丈夫なの?」
友達は着替えながら、心配そうに僕に尋ねてくる。
それは単位の心配ではない。僕は苦手だからと頻繁に授業をサボるような生徒じゃない。一応、苦手と自覚していても授業はしっかり受けている。キヨシは、ばあちゃんの言つけで動かされる僕の方を心配していたのだ。
「しらねぇよ」
納得して動くわけじゃないから、僕の不服な様子をキヨシは察してくれる。
「ああ、まぁ、そうだよな。うん、気をつけろよ」
キヨシは、家族ぐるみでばあちゃんの世話になっていたので、僕がばあちゃんと話せることも、ばあちゃんがどんな人なのかもわかっている。だから、突拍子もないことを僕が言っても少々のことでは動じないし、むしろ心配すらしている。
「あとで、ノート見して」
「わかった」
この後の授業の内容は、キヨシに任せて僕は学校をでる。
あとは、キヨシがなんとか良い言い訳をして先生に早退のことを伝えてくれるだろう。十中八九、体調不良というだろうが。
ばあちゃんは、いつも突然現れて、時間と場所を選ばない。
家にいる時もあれば、移動中な時もあるし、学校の授業中な時もある。
『変わりないか?』
『うん、なんもないよ』
そして僕にとって重要なことを言う時もあれば、全く不必要なことを言うこともあるし無言で去っていく場合もある。
『あんた、私がよくお祈りしに行ってた神社覚えてる?』
『え、うん。覚えてるよ』
その神社はよく覚えている。ばあちゃんとよく行った場所だ。
あたりを住宅街に囲まれているが、大きな鳥居と本殿へまっすぐ続く木々が印象的な神社で参道を並走するように両脇に小川が流れている。その辺りは、元々綺麗な川が流れていたが、戦争や開発で人為的に地形が変えられてしまっていた。ただ、神社周辺だけは人の手を免れて大事に神様が信仰されている。高度成長期だか大型の台風だかで、参道の大きな木々が伐採されるような計画もあったらしいが、ばあちゃんが『神様から許可が降りないからダメ』と口添えをして阻止をしたらしい。ばあちゃんは、何かあるとその神社へよく通っていた。『何か』というと、個人的な祈りや願い事のような意味合いが強い聞こえるが、ばあちゃんの場合は神様に呼ばれたというものや、挨拶廻りと言っていた。僕も、ばあちゃんに連れられて何度も言ったことがあるし、神主さんとの面識もある馴染みの神社だ。
ばあちゃんは、大体家にいて、訪ねてきた人の対応をお祓い部屋で行っていた。だから、家からほとんど出ることはなかった。けれど、そんなばあちゃんも外出することはある。それは、土地の相談事や建物にまつわることだったりした時だ。けれど、ばあちゃんは高齢者だし、移動にも時間がかかってしまうから、なるべく人を自分の家に来させるように努めていて、出向く出向かないも大体ばあちゃんが決めていたように思う。
そんな数少ない外出で、最も多かったことが、神様の元を訪れるということだった。神様への挨拶や、呼ばれて行くことがほとんどで、僕は声をかけられたらほとんど一緒について行った。そうして、神様に挨拶をすることで、もしもの時に神様から援助をしてもらうこともあったようだ。
『そこに今から行きなさい』
『え?いま?』
いくら空気の読めないばあちゃんとはいえ、僕の状況くらいはわかっているだろう。
『授業中だよ』
『いいから行きなさい』
確かに、あと10分くらいで授業は終わるけど…
ばあちゃんが、念を押す。
『この後まだ授業残ってるし…』
『どうせ、体育嫌いでしょ?』
…ま、まぁそうだけどさ。
次の授業が何かを知っているということは、残りの授業があることを知っていて僕にそういうのだ。僕の学校は、進学校だから部活動に強制力がない。学校によっては、必ず部活に入らなければならないという校則が存在する学校もあるが、僕の学校はそうじゃない。
部活動と勉強を両立させられるスーパーな生徒はいるが、僕はそんなにたくさんのことを効率よくしようとは思わないので、部活には入っていない。だから、体育の授業以外運動という運動はしない。
しかも、僕は運動が苦手だ。走るのも遅ければ、球技も全然ダメなタイプで、高校生になってから断然、体育は好きじゃない。クラスメイトの男子は、骨格も筋肉も成長して体格が大きくなる。中学校から、成長期に入っている生徒もいたが、高校になると中学よりももっと子供臭さが抜けるような気がする。同性の生徒の運動能力は、俊敏だし力強いし、身体を使い慣れているといった感じがある。自分の体の隅々のエネルギーをうまく使えているという眩い光を発しているような気になって、まるっきりついていけない僕は劣等感で影ができる。
もちろん、馬鹿にされたりいじめられたりすることはないし、みんないい人なのでチームにも入れてくれるし、上手く試合に混ぜてくれるが、妙に神経質になっているせいで普段はオフにしているスイッチがたまにオンになる。みたくないものや聞きたくないものを聞いてしまったりもする。体育になると、多少の興奮もあるせいか、そんなことが何度かあるので僕は総じてスポーツを好きにはなれない。
『学校終わってからじゃダメ?』
『ううん今から』
今から!!?
『なんで?』
『今から、行きなさい』
何かあるけど、何も教えてくれないのは、いつものことだ。
『お祈りしに行けってこと?』
『あとね。ノンちゃん魂落としたから』
ばあちゃんは、こちらの質問に答えずに一方的に自分の話だけをする。きっと、ノゾミもそうだったんだろうなと思う。
だから、ノゾミが僕のばあちゃんを「クソババア」というのを止めない。僕も心の中で、どこかそう呼んでみたいと思う気持ちがあるからだ。でも、ばあちゃんは僕の身内だし、いうなれば先祖の枠に入る。先祖は大切にしなければならないのは、ばあちゃんの背中を見て育ったから、骨の髄まで染み込んでいる。だから、赤の他人が自分のばあちゃんに対して暴言を吐くのを止めずに見守ってしまうのは、仕方がないと思う。
『はあぁ!!?どういうこと!?その神社で落としたの?!なんで!?ばあちゃんっ!』
ばあちゃんは姿を消した。
スイッチを切っておかなかった僕は後悔した。
っていうか、僕が話を聞かないことを知っていて、言葉を変えて話しかけてきたんだと今気づいた。
つまり、ばあちゃんの策略にまんまとハマってしまっていると言うことだ。
だから、幽霊が見えることで良かったことなんて、ほぼないんだ。見えないに越したことはない。
「…」
っていうか、ノゾミが魂おとしたって、なんだよ!おい!!
ばあちゃんの気配はない。
もちろん、俺だってばあちゃんの言いつけを全部守ってきた訳じゃない。
守らなかったこともあるし、それによって「…な?言っただろ?」と言われたことは何回もある。
まだばあちゃんが生きてた頃に、学校から帰ってすぐに出かけて友達と遊びに行く時だ。ランドセルを放って家を出たかった僕をばあちゃんが呼び止めて『木には登るなよ』と言われた。僕は返事そこそこに友達数人と遊びに行った。いつも遊んでいるところで遊ぶのかと思ったが、友達の一人が面白い遊び場を見つけたと誇らしげにみんなを連れて行った。公園の草むらをかき分けた先にある大木がある場所で、そこは木の周りの草が刈られていてちょっとした広場になっていた。友達は、その木に秘密基地を作って遊ぼうと行って登り始めた。その他の友達は登れそうな大きな木に感動して皆んな木を登り始めた。僕も楽しそうな雰囲気に我慢できずに登り始めて、その日はそのまま遊んだ。
帰ってきて、玄関に仁王立ちしているばあちゃんに『玄関から入るな』と言われて、お祓い部屋の入り口に回され、ばあちゃんにお祓いをされるという、いつもの流れになる。その時に『木には精霊が宿っているんだから、傷つけるようなことはしてはいけない』というのを教わった。だから、木には登るなと言っただろうと言われたが、それならもっと詳しく教えてくれよと子供ながら思って無言になったが、そうやって捻くれた心もばあちゃんにはお見通しで『あれ以上止めても私のいうこときたか?』と言われ何も言えない。確かに、家を出る時にはかなり気持ちが速って家を飛び出したから、聞けていたかどうかの自信もないし、楽しい雰囲気に呑まれ言葉を思い出せなかったくらいばあちゃんの言葉を頭の片隅に追いやっていたから、何も言えない。
だから、ばあちゃんのいうことは、守らなければならない。
というのは、こういう小さなことの積み重ねで染み付いてしまった。だから、言われた言葉に対して敏感になってしまう。心配事の9割は起こらないというが、ばあちゃんの場合はその1割を確実に言い当てられる。一見、危険回避のように聞こえて、言われたことのない人は純粋に守ればいいじゃんと思うかもしれない。けれど、当事者になってみれば、この気持ちはよくわかると思うが、常に首根っこを掴まれているかのような感覚は決して良いことばかりではない。
「わかったよ」
授業終了の鐘がなる。
先生は、時間通り授業を終えると教室を出て行った。
授業の緊張が解けたクラスは、人が動き出すが次の授業がある。
「キヨシ」
振り返って仲の良いクラスメイトを呼んだ。
僕の席は、一番前で先生の教卓の前だ。僕は進んでその席にしてもらっている。名目は『目が悪いから』と言ってるが、本当はクラスメイトの守護霊や熱気で黒板や先生が見えないことがあるからだ。
「ん?」
幼馴染で、クラスメイトに僕は声をかける。
ばあちゃんも言っていたように、次の授業は体育だ。まだ着替えていない生徒は服を脱ぎ始めて体操着に着替え始めている。
「僕、帰るから」
「え?なんで?」
僕は、カバンを掴んで肩にかけながら友達に近づいていく。
「ばあちゃんが、ふけろっていうからさ」
「マジかよ…え、大丈夫なの?」
友達は着替えながら、心配そうに僕に尋ねてくる。
それは単位の心配ではない。僕は苦手だからと頻繁に授業をサボるような生徒じゃない。一応、苦手と自覚していても授業はしっかり受けている。キヨシは、ばあちゃんの言つけで動かされる僕の方を心配していたのだ。
「しらねぇよ」
納得して動くわけじゃないから、僕の不服な様子をキヨシは察してくれる。
「ああ、まぁ、そうだよな。うん、気をつけろよ」
キヨシは、家族ぐるみでばあちゃんの世話になっていたので、僕がばあちゃんと話せることも、ばあちゃんがどんな人なのかもわかっている。だから、突拍子もないことを僕が言っても少々のことでは動じないし、むしろ心配すらしている。
「あとで、ノート見して」
「わかった」
この後の授業の内容は、キヨシに任せて僕は学校をでる。
あとは、キヨシがなんとか良い言い訳をして先生に早退のことを伝えてくれるだろう。十中八九、体調不良というだろうが。
