『今日は、ノンちゃんと帰らないの?』

「ん?」

 懐かしい声に話しかけられる。
 うまく聞き取れなかったんじゃなくて、半分驚いて漏れてしまった声が聞き返すような音になっていたらしい。

「え?なに?」
 
 クラスメイトが僕の異変に気づいて聞き返してくる。
 僕は、それがばあちゃんの声だとすぐにわかった。
 わかったので、友達にあえてそれを伝えなかった。なぜなら、すぐそこの道がクラスメイトとの分かれ道だったからだ。面倒臭い説明を省きたかった。

「ううん。なんでもない」

『喧嘩でもしたの?』

「じゃあね」
「お、おう」

 ばあちゃんが会話をしたがるので、ちょっと待ってよと心の中で伝えてクラスメイトに別れを告げた。ここからは1人になって徒歩で自宅へむかう。

『急に出てきたら、びっくりするじゃん』
『ノンちゃんは?』

 さっきから、しきりにノゾミを気にするばあちゃんに僕はいう。

『今日は、一緒じゃないよ』
『なんで?』
『なんでって…テスト期間中だもん』

 中間テスト期間なので、いつもの授業の時間よりも早く家に帰る。
 きっとノゾミの学校もテスト期間だろうが、さっきのクラスメイトも言っていたようにヤンキー校なので、よくわからない。というのは、ノゾミがちゃんと勉強をしているのかという事や、時間通りに帰宅しているのかとか、そういうことだ。もしかしたら、早めにふけているかもしれないし、そもそも登校していないかもしれない。

『ノンちゃんに会いに行ったほうがいいよ。大変だよ』
『なんで?』
『なんとなく』

 でた。
 ばあちゃんの必殺技「なんとなく」だ。
 これは、ばあちゃんの勘によるもので、説明が難しい。
 生きている時からよく言っていたが、それは今でも変わらないらしい。

『え?でも、もうすぐそこ家だし…』
『…』
『えっ!?ちょっとばあちゃん!??それだけ!?』

 ばあちゃんは、すーっとまたいなくなってしまった。
 それだけを言いに出てきたのだろうか?っていうか、ヒントくらい言ってくれてもいいのに。

 生前からもそうだが、ばあちゃんの言うことは必ず守らなければならないというのが家族のルールだった。
 なぜなら、ばあちゃんの言うことを守らずに大変な目に遭ってきたことが何度もあるからだ。逆にばあちゃんの言いつけを守って惨劇になったことは1度もなく、外したこともない。守らずに苦しい思いをして、耐えきれずに「だから言っただろ」と呆れたばあちゃんになんとかしてもらうというケースは家族の全員が1度は経験していることだと思う。
 その苦い経験から全員が何も言わずともばあちゃんの言いつけは何がなんでも守らなければならないと言うのが、父親や母親を見ていて、幼い頃から染み付いてしまっている。特に、ばあちゃんからいろいろ教えてもらっていた僕は、ばあちゃんの言いつけを守らないと気になっていたもたってもいられなくなる体質になってしまった。
 
「あぁあっ!もう!」

 僕は、門扉まであと1歩の所で、道を引き返す羽目になった。