十日ぶりに優馬くんと会った日の帰り道、私は彼からもらった飴を舐めながら歩いていた。優馬くんは会うと必ず飴をくれる。出会った日に私が飴を好きだと言っていたのを覚えてくれているのだろう。彼のそんな優しさも私の好きなところだ。
家の近くの角を曲がろうとしたところで、人とぶつかりそうになる。咄嗟にすみません、と謝ると、相手も同じように返してきた。
「……ってあれ、沙紀じゃん!」
「谷口! びっくりした!」
突然呼ばれた名前に驚いて相手の顔を見上げると、中学時代の友人が立っていた。久々の再会に驚いて、つい大きな声を出してしまう。数ヶ月ぶりに見た彼は、少し背が伸びてシュッとしていた。
「お前なぁ、声でけーよ」
「あはは、ごめん」
「そういや、沙紀はあそこだっけか」
谷口はそう言って、私の後ろの方を指さした。恐らく高校の話をしているのだろう。彼が指をさしたのは私の学校がある方向だ。
「うん。谷口はあそこでしょ?」
私は同じように、谷口の通っている高校の方を指さした。うんと谷口が頷く。
「それなら坂田優馬って子知ってる? 一年生なんだけど」
「えー、分かんねぇ。少なくとも一緒のクラスではないな」
谷口は優馬くんと同じ高校である。制服も確かに同じだ。きっちり着ているか、着崩しているかの差はあるが。彼らの学校は1学年に400人ほど生徒がいる。同じクラスじゃないのなら、認知していなくても無理はない。
「どういう知り合い?」
「どういうって聞かれると難しいけど……偶然知り合って、よく話するようになったみたいな」
「あ、分かった。お前そいつに惚れてるんだろ」
谷口のストレートな言葉に、うっかり黙り込んでしまった。無言はイコール肯定だ。目の前の男はニヤニヤしながらこちらを見ている。ちょっとムカついたので、肩の辺りを小突いてやった。
「坂田優馬ね。オッケーオッケー、俺が調査しといてやろう」
「しなくていい!」
なおもニヤニヤしながら言った谷口に、もう一発お見舞いする。その後は近況を少し話してから帰った。旧友と会えたせいか、なんだかんだいつもより気分がよかった。



