それから私と優馬くんは、雨の日にほぼ必ず会うようになった。ほぼ、というのは、会うのは平日のみにしているからだ。土日だとお互いの負担になることを考慮した結果である。雨の降る休日にわざわざ出掛けたりしたら、ママがしつこく質問をしてくるに違いない。そう説明すると、親にいろいろ聞かれると面倒だよねと、優馬くんも同意してくれた。
会ってもするのは、たわいのない話だけだ。友達とどこどこに遊びに行っただの、先生がこんなこと言っただの、そんな話ばかり。だが、それがとても楽しかった。
会った回数がだいぶ増え、世間でも冬服が当たり前になったころ、私は自分が優馬くんに恋心を抱いていることに気がついた。元々魅力的だと感じていたが、とあるやり取りをしたときにそれが明確になったのである。
「いつもお母さんの愚痴言っちゃってごめんね。話せる相手いなくてさ」
きっかけは私のそんな言葉だった。優馬くんは優しく首を横に振る。そんな穏やかな仕草がなんかいい。
「学校の友達とかには話せないの?」
「学校の友達に話したこともあるんだけど。沙紀のママ優しいじゃん、感謝しなよ、みたいなこと言われて何も言えなくて」
その友達の言う通りだと思う。ママは優しいし、私はそれに助けられている。だから感謝をしなくてはいけないことは分かっていた。でも、それなら全部受け入れられるというわけではない。
「そっか、それはちょっと話しにくいね。俺的には、感謝する気持ちと干渉されたくないって気持ちは、どっちもあっておかしくないと思うんだけどな。だって沙紀ちゃん優しいもん。ちゃんとお母さんのこと大事にしてるんだなっていうのは伝わってきてるよ」
暖かい雰囲気で、優馬くんはそう言ってくれた。それが嬉しかった。ママに執拗に干渉されたくないと思っている自分は、嫌なやつなんじゃないかと思っていた。そんな私の心を救う言葉を掛けてくれたのが、優馬くんなのだ。私はこの人のことが好きだ。そのときにはっきりとそう感じた。
しかし、好きになったからといって何が変わるわけでもない。とりあえず今は、雨の日に会うだけの関係を保てれば構わないと思っていた。



