家に帰ると、私は慌てて洗面所に向かった。学校で勉強していたと嘘をついた以上、雨に濡れたことがママにばれるのは避けたい。優馬くんと話をしている間に多少は乾いてきていたが、さすがに髪も制服も完全には湿り気が取れていなかった。
「沙紀、何かあったの? 制服汚した?」
タオルで髪と制服を拭いてからリビングに向かった私に、ママはそう尋ねてきた。
「え? なんで?」
「だって、いつもはママが言わないと手洗いうがいしないじゃない。今日は珍しく直行してたから何かあったのかと思って」
勘づかれている。仮に優馬くんとのことが伝わったからといって、叱られるようなことはないだろう。ただ、ママは嘘をつくことには厳しいし、詮索したがりだから、隠し通した方が楽な気がした。
「んーん、何もないよ。それより今日のご飯なに? お腹すいちゃった!」
「そう? じゃあいいけど。今日のご飯はカレー」
「やったー、カレー好き!」
「もうご飯にしちゃうから、机の上拭いといて」
ママはそんなに気にしていない様子で、ご飯をよそいに行った。なんとなく最近、ママの前での自分が演技っぽく感じる。特に、誤魔化したいことや隠したいことがあるとき、わざとらしさにドキドキしてしまう。自分でいうのもなんだが、今は思春期なのもあって聞かれたくないことがいろいろあった。だから、知りたがりのママがいる家は、少し息苦しい感じがしていた。



