あめ降る日々


次の日、アラームの音で目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。朝だというのに部屋がなんだか暗かった。カーテンを開けて外を見てみると、雨が降っている。つまり今日は、優馬くんと会える日ということだ。いつもなら喜んでいるところだが、昨日知らされたことを考えると素直に喜べないのは当然だろう。今日は会いに行くのをやめようかと思ったが、何も言わずに取りやめると長時間待たせることになってしまうだろうから一応行くことにした。
 
「今日はちょっと遅かったんだね」
 
会って早々、そう声を掛けられた。確かにいつもより30分ほど来た時間が遅い。行くと決めたにもかかわらず、なかなか足が進まなかったからだ。
 
「ごめんね、ちょっと学校でいろいろあって」
「そっか、お疲れさま。いつもより遅いから今日は来ないのかなって心配してたんだ」

こうして話してみると、普通の男の子だとしか思えない。だからといって、谷口が嘘をついているとも思えない。確認してみようか。そう思うものの、なんて聞けばよいのか考えつかなかった。優馬くんって偽名なのなんて聞けないし、ましてや優馬くんって幽霊なのなんて聞けば、おかしなやつとも思われかねない。結局、その場では何も聞くことができなかった。
 
そのまま解散した後、なんとなくいつもと違う道を歩いた。少しでも気を紛らわせたかったからだ。思いつきで商店の近くの大きな交差点を渡ることにする。少し遠回りになるが、今日は解散が早めだったのでそのくらいは問題ない。その交差点で信号が変わるのを待っていると、ふと足元に目がいった。そこには小さなお地蔵さんがあった。そして、その前には花が数輪手向けられている。おそらく以前ここで事故があったのだろう。なんだかとても嫌な感じがした。
 
仮に、ここで事故にあったのが優馬くんだったら。よく見ると、お地蔵さんはそんなに年季の入ったものではないようだった。考えたくないのに、信じられないのに、辻褄が合ってしまう。可能性だけでいえば、かなり低い。それでも否定できる材料を私は持っていなかった。

もし、本当に優馬くんが幽霊だとしたら、遠くないうちに別れる日が来るだろう。彼が亡くなってしまっているということもだが、別れが近いであろうことも、私を苦しめる。好きになったのに、このままお別れなんて嫌だ。自分本位だがそう思った。もっと一緒にいたい。でもそのためにどうすべきかは分からない。ただ、とにかく優馬くんの正体については胸にしまっておくことにした。
 
それからは優馬くんと会うとき、今までの自分の態度を貫いた。同い年の、近くの男子校の男の子とたわいのない話をしているだけ。たまにハッとさせられることもあったが、そう思えば以前の自分と同じように接することができた。