後宮妃は木犀の下で眠りたい

「……翠蘭の死が引き金か」

 俊熙の言葉に対し、香月は小さく頷いた。

 ……どこまで利用されていたのだろう。

 父は知っていたのだろう。

 後宮で咲き誇る毒の花園の中に香月を入れることをせず、なにも抵抗する術を持たない翠蘭を後宮入りさせたことに対し、疑問を抱く。

 ……父上も関係しているかもしれない。

 それを確かめる術はない。

「四夫人の席が空けば結界を維持する力が弱まります。それを修復せずに放置し続ければ亀裂が生まれ、今の状況に繋がったのでしょう」

「それを誰も指摘をしなかったのは、李王朝の崩壊を望む者の仕業か?」

「わかりません。しかし、可能性は低くはないでしょう」

 香月は素直に答える。

 それは俊熙にとって心地の良いことだった。当たり障りのないことばかりを口にする側近たちよりも、香月の方が信用できた。

「俺も狙われていたと?」

「最終目標であった可能性は否定できません」

「そうか。……それはそうだろうな。お飾りにも限度というものがある」

 俊熙は帝位に就くべき人ではなかった。

 しかし、四年前、皇族に不幸が続いた。皇帝が病に倒れると、続いて、当時の太子だった第一太子を筆頭として大勢の太子と公主が亡くなった。

 それだけのことだ。

 しかし、俊熙が操り人形のようになるのは、俊熙の性格によるものだ。優しすぎる気質の俊熙には独裁ができなかった。

「兄上や姉上たちも、先帝も、呪われて死んだのだろうか」

「わかりません。しかし、可能性は低くはないかと思います。短期間で流行する病ならば、王都は壊滅的な被害が出るはずですので」

「正論だな」

 俊熙は香月の髪に手を伸ばした。

 手入れの行き届いた髪は絹のように繊細だ。

「はっ、俺は認識すらされなかったか」

 俊熙は自嘲した。

 冷宮に追いやられた蜂貴人とその息子として生まれた第六太子の俊熙は、死の病にかからなかった。

 俊熙は死の病を跳ね除けた奇跡の子として、蜂貴人の子ではなく、皇后の子として縁組を結ばされた。