それでもマフラーをなびかせながら一歩一歩足を前へと出す。傘がないからか睫毛に雪が積もり、瞬きの度に濡れた涙袋が凍りつき、あまりの寒さに突き刺すような痛みに襲われながらも、辿り着いた裏山の入口。張られていると思った規制線は捜索活動が打ち切られたからか既になく、案外すんなりと裏山に入ることが出来た。
「松雪!! 声が聞こえたら返事して」
雪が舞う中、息をするだけで肺胞が凍りついてるいのではないかと疑うほどの激痛に襲われても、ヒリつく喉が悲鳴をあげても声を上げ続ける。松雪に出会う前だったら、教室の中だったら、みんなの前だったら、絶対に出せなかった声。普段の自分を守る世間体とか、性分を捨ててでも松雪にもう一度会いたかった。辺り一面の白がなんとか絞り出した声を吸い込んでいってしまうのがもどかしい。そんな心のうちを知ってか知らずか、勢いをまして降る雪。どんどん悪くなっていく視界。
手袋をし忘れた指先がかじかむ。降り積もった雪の上にはどこにも彼の足跡は見当たらなかった。わかっていた。いや、頭ではわかっていた。けれど身体がいう事を聞かなかった。馬鹿だってわかってる。先生にも、親にも、クラスメイトにも怒られちゃうかな。でもごめん、みんな。松雪がいない教室も、松雪がいない通学路も、松雪がいない冬も、松雪がいない春だって、ぜんぶ我慢できそうにない。
「まつゆき!!!!! 松雪、どこ? ⋯⋯松雪、返事して」
裏山に入ったはいいが、どこで雪崩が起きたのか、一見ではわからなかった。松雪なら、土地勘のある地元の人ならわかるのかもしれないけれど。つい先日転校してきた分際ではわかるはずがなかった。だけどここまで来てしまったからには、松雪がいないままの日常に戻るわけにはいかなかった。
「松雪⋯⋯お願い。返事、してよ。まだね、松雪に伝えられてないことあるんだよ」
こんなことになるなら、ちゃんと思った時に言っておけばよかった。
ねえ、松雪。ごめん。ごめんね。謝っても足りないんだろう、ってわかってる。それでも謝りたい。昨日の帰り、先に帰った松雪に少しだけ怒ってて、いつもなら絶対確認する机の中を見なくてごめん。手紙に気付けなくてごめん。なんて、肺胞が、気管が凍り付いてしまったのか、出なくなった声を必死に振り絞った。ひゅーっと喉の奥が声のかわりに音をたてる。
「あいたい⋯⋯会いたい。会いたいよ、松雪」
刹那、突然強い風が吹いてきて、思わずきつく目を閉じてその場にしゃがみこんでしまった。



